健康的な体を目指すために、欠かせない知識が「栄養学」。これまでgoodchoでは食や運動、栄養について触れてきました。 

ただ、「何を」食べるかだけでなく、「いつ」食べるかも重要である、ということが最近明らかになってきました。 

みなさんは「いつ」食事をするか、「いつ」寝て、「いつ」運動するか考えたことはありますか? 

今回は、広島大学大学院医系科学研究科 准教授の田原優先生に、時間栄養学の基本から睡眠、食事、そして腸内環境との関係について教えていただきました。 

何をするか、だけでなく「いつ」するかに着目する栄養学 

ーーー時間栄養学について教えてください。 

田原:今までの栄養学に足りていなかった、「食べるタイミング」を考える学問です。 

今までは、栄養学=三大栄養素、機能性、味覚、、などに注目されていて、「いつ食べるか」「いつ寝るか」のように時間を考慮できていませんでしたが、時間栄養学は名前の通り時間にフォーカスを当てています。 

キーワードとして「体内時計」というものがありますが、聞いたことはありますか? 

ーーーなんとなくですが…体のリズムみたいなものですよね??? 

田原:そうそう。体って1日24時間を通して一定ではなくて、体温や腸の活動具合も変わります。そうなると、朝も昼も夜も同じものを食べましょうというのはおかしいですよね。タイミングに合った栄養素の取り方がある、そこを突き詰める学問です。 

ーーー確かに。栄養学に時間という概念はあまりなくて、食べるものの質や量ばかりを気にしていたような気がします。 

田原:これからは栄養学の教科書にも時間栄養学が組み込まれていくと思いますよ。ちなみに、今までも体内時計について触れていましたが、どちらかというと肥満や摂食中枢にフォーカスされているものが多かったですね。 

ーーーなるほど!体内時計というと、一般の人たちは朝型、夜型みたいな会話で触れますよね。実際そういう概念はあるんですか……? 

田原:あります。具体的には、朝型、夜型みたいな特徴は、遺伝的に決まっていると言われています。約60万人を対象にした欧米の大規模研究によると、350くらいの朝型・夜型遺伝子が見つかっていて。朝型、夜型は、生まれ持った体内時計の性格に近いですね。 

ーーー遺伝子で決まるんですね!どのくらい時間に差分が生まれるんですか?? 

田原:実際、この遺伝子で起こる時間のずれって30分くらいなんだとか。(期待するほどずれないというか……)すごい朝型遺伝子を持っているからと言って、夜型の人と比べて睡眠時間が3時間も違う!なんてことはないんですよね。結論、遺伝子だけで説明しようとすると、なかなか難しい。 

ーーー確かに。でも実際に一般の人で、朝型の人は朝5時起きとか、夜型の人は起きるのが昼の12時を過ぎる……みたいに、結構極端に分かれますよね? 

田原:そう。なので、遺伝子だけでは説明がつかない事象で、社会的な影響も大きいんじゃないかと言われています。例えば朝起きて学校に行かなければならない、とかですね。 

現代は夜型の人にとってハードな社会である 

ーーー社会的に決められたルール上、起きなければいけない、寝なければいけない。ということですね!自分は何型なんだろう……。 

田原:朝型・夜型は「クロノタイプ」と言いますが、実際に自分は何型なのか、簡易的にチェックする方法はあります。 

※クロノタイプを正確に知りたい場合は、こちらのサイトを参照ください。
https://mctq.jp/q/top.php

休日の起床時間と就寝時間の真ん中を比べてみて、表に当てはめてみてください。 

ーーーおお!……私は中間型でした。 

田原:あ、中間型はいわゆる「普通の人」ですね(笑) 

ーーーふと思ったのですが、夜型の人って結構この社会で生きていくことがハードではないですか? 

田原:その通りで、どうしようもない、というのが正直なところで、夜型の人は夜仕事をした方がはかどるので、朝起きない方がいいんですよね(笑) 

朝型はその逆で、朝の方が仕事のパフォーマンスも高くなる。ちなみに僕は完全に朝型で、夕方〜夜になると集中力が切れちゃいます。この個人差ってかなり強いんです。 

ーーーなるほど。私もどちらかといえば朝の方がはかどります。夜更かしすると、小腹も空いちゃうんですよね……。 

田原:それでいうと、最近食習慣との関係も調べていて、夜型の人は朝食を食べない人が多く、ジャンクフード(ラーメンなど)が好き。夜食にサラダは誰も食べないですよね。 

逆に朝型の人は、ビタミン・ミネラル・タンパク質を多く含む食事を摂る傾向にあります。 

ちなみに、朝型、夜型に明確な定義はないものの、僕らが調べる限り夜型の傾向にある人は4人に1人いますね。 

社会は時間栄養学とどう向き合っていくべきか 

ーーー今の世の中って、夜型の人がパフォーマンスを出しにくい構造になっていると感じるのですが、ここに対して時間栄養学的にどのようにアプローチしていくのが良いんでしょうか? 

田原:やっぱり、夜型の人は遅寝早起きをしてしまうので、平日寝不足になりやすくなります。それを解消しようと、休日に沢山寝ようとして遅寝遅起きになる。これを社会的時差ボケと呼んでいて、平日と休日で生活習慣が変わってしまう。これが1時間程度ならまだしも、2〜3時間と開いてしまうと、肥満や喫煙率も高く、学業や仕事のパフォーマンスに影響がでるというデータもあります。 

ーーー社会的時差ボケ。すごい強烈なキーワードですね。平日と休日の生活リズムに差が出てる人、結構いそう。 

田原:本当に多いんじゃないですかね。そんな人に対してアドバイスをするとしたら、規則正しくしてもらうのが一番。平日も休日も同じ時間帯で過ごしてほしいんです。ただ、それもなかなか難しい。であれば、その次に「朝ごはんを食べましょう」と伝えています。 

ーーー朝ごはん……? 

田原:はい。夜型の人はとにかく午前中やる気がないんですが、それには朝食が関係していて。 

子どもたちの朝食欠食率と学業成績は関係しているって何十年も言われているじゃないですか。朝食べることで体温が上がって、午前中も頭が回っているというメカニズム。なので、夜型の人も朝ごはんを食べて、頭を回してもらうのがいいんです。夜型の人にとって朝ごはんっていつ?という話にもなるんですが、起きた後すぐ食べる、が答えです。 

ーーー起床時間が12時で、その後すぐに食べるものは一見ランチのように見えて朝食になり、これを平日も休日も関係なく続けるということですね。 

田原:夜型の人が、夜遅い時間に活発になるっていうのはある意味健康的で、それをずっと続けて体内時計をずらさないことが大切なんです。毎週のように時差ボケを繰り返してしまうのは良くない。そのためにも、朝ごはんをしっかり食べて体内時計を一定に保つことが重要なんです。 

ーーーなるほど。ということは、どうやら時間栄養学は「朝食」が何かキーワードになってそうですね。 

田原:そうですね。朝食は体内時計を早める効果がある一方で、夜寝る前の食事は体内時計を遅らせてしまう効果があります。朝ごはんには体温を上げる、パフォーマンスを高めるという側面だけでなく、体内時計を調節するという働きもあるので、夜型の人も食べた方がいいねっていう話です。 

あ、ちなみに体内時計を早めるという表現をしていますが、体内時計は24時間よりちょっと長いんですよね。何もしなかったら少しずつ遅れてしまうので、そうならないためにも、朝食を食べて毎日リセット(調整)することが大切なんです。 


田原優|広島大学大学院 医系科学研究科 准教授 
2013年、早稲田大学にて博士(理学)。2013年より早稲田大学 助手、助教、University of California Los Angeles 助教を歴任。2019年より早稲田大学准教授。2022年より広島大学准教授。常にヒトへの応用を意識しながら、時間栄養学の確立に携わってきた。現在は企業と連携し、公衆衛生学も取り入れながら、時間栄養学研究の社会実装を目指している。著書に【体内時計応用法(杏林書院,編著,2022)】【体を整えるすごい時間割(大和書房,2019)】