将来を見越した子どもの健康を考えるパパ・ママは多いですよね。そんな子どものためにできる健康法の一つが、運動です。でも、どんな運動をさせるのが良いのか、いつ・どこで運動するのが良いのか、疑問に思う方は必見! 

今回は、スポーツ医学の臨床、教育、研究を行いながら、プロスポーツや高校大学、社会人チームのチームドクターおよび競技団体の医事委員として活動される、世良泰先生に、子どもの成長と運動、食事(腸活)についてお話をお聞きしました。 

子どもの頃に「体の大元を作る」ことが将来の健康につながる 

ーーー子どもの頃は運動をした方がいい、と考えている親御さんは多いと思いますが、改めて子どもの運動が将来の健康に与えるインパクトについて教えてください。 

世良:子どもの成長の時期に運動をすることは、”体の大元(おおもと)”を作るという意味で重要ですね。 

具体的な例で説明するなら、骨密度がわかりやすいと思います。 

骨密度のピークは20〜30代。女性は閉経によって閉経性の骨粗鬆症になりやすく、転んで骨折する可能性が上がってしまいます。なので、20歳くらいまでに骨密度(大元の数値)を高くしておきましょうとよく言われます。 

骨密度を上げるためには「抗重力運動」がおすすめで、骨を重力に対抗させることで骨密度が高くなります。なので、子どもの頃から「走る」「ジャンプする」といった運動をすることが、骨密度を上げることにつながります。 

ーーー骨密度は20歳がピークで、それからは減っていく一方。骨密度の数値を貯金しておく必要があるということですね。 

世良:もちろん、やりすぎは良くないという話はありますが、運動を全くしないよりかはしたほうがいいでしょう。 

骨密度に限らず、子どもの頃に運動をして体のベースを作ることは将来の健康を考えても大切です。私たち大人も、仕事や勉強をする時って健康であることが大前提ですよね。これは子どもの頃に作り上げた体の大元が健康であってこそなのです。 

ーーーなるほど、大人になってから頑張ろう!と思っても、なかなか難しいと思います。 

世良:大人はなかなか時間が取れないですよね。時間だけじゃなく体的にも、心身の健康の土台を大人になってからつけるのは難しいです。 

バランス能力や身長も、後から鍛えようと思ってもできないので、成長の途中である幼少期や子どもの時に培う必要があるんです。 

ーーー親が子どものために運動できる環境を準備してあげることが重要、ということでしょうか? 

世良:そうですね。よく「遊びを通して成長していく」って言われるように、子どもは遊ぶことでいろんなことを学びます。とはいえ、もちろん子どものために親が運動する環境を準備することは重要ですが、ある程度自由度を与えることも大切ですよ。 

例えば、幼稚園・保育園に置いてある遊具。 

決められた場所に遊具だけが並べられている園と、遊具の真ん中に木が植えてある園で、どっちが子どもの成長や遊びを促すか調べてみると、圧倒的に後者の方が良かったんです。 

決められた型にはまった遊びだと、子どもたちは飽きてしまう。そこに木が一本でもあれば、その周りを走り出す。そのくらいのレベルで、子どもたちは自分たちで考えて遊び出すんです。 

もちろん、子どもは全てを自分で決めることはできないので、両親が機会を与えてあげることも重要ですが、環境を自然と与えてあげられるかも重要だと思っています。 

暦年齢ではなく、子どもの”今の体の状態”を考慮した運動が大切である 

ーーーでは、子どもにはどんな運動がおすすめですか? 

世良:子どもの年齢(時期)によっても大きく変わってきます。 

そもそも、同じ小学校5年生でも成長具合は違います。同じ10歳でも、身体機能の発達度合いで言えば8歳〜14歳程度と、6つも差があるんです。なので小学生だと体が大きくて筋力がある子が運動で勝ってしまうんです。 

なので、成熟度で考えてみましょう。大人の成熟度を100とすると、子どもはどのくらいなのかを検討します。(例えば10歳の時に50なのか、それともまだ低いのか) 

例えば海外のユースチームは成熟度を測っていますし、日本でもJFA(日本サッカー協会)は取り入れてますね。暦年齢ではなく成熟度的に子どもは今何歳くらいなのか、それによってやるべき運動が変わってきますよ。 

ーーーなるほど!同じ10歳でも同じような運動ではなく、体の年齢に合った運動をさせるのが重要なのですね。 

世良:はい。子どもの成長を測る項目のひとつにPeak Height Velosity(PHV;最大成長速度)と呼ばれるものがあります。生物学的年齢の測定って骨のレントゲンを撮って骨年齢から出すのですが、なかなか測るのは難しい。なので、最大成長速度から今どの程度の成熟度なのかを考える方法です。 

グラフで身長が一番伸びる時期を段階分けして、 Phase 1、2、3、4と分けるのですが、最初は神経系の運動(運動神経など)、成長速度が上がってきたころからPHVまでは心肺機能系(持久力系)、 PHVを過ぎたら筋トレをするのがいいのではと言われています。ここを鑑みても、子どもが何歳なのかによってやるべき運動は変わってきますよね。 

ーーーPHV、初めて聞きました。確かに、子どもの頃から成長期にかけて筋トレをしすぎると、背が伸びにくいという話は聞いたことあります 

世良:背を伸ばすってことに関して言うと、心身的なストレスをかけずに思春期を遅らせることも重要ですよ。日本人は二次性徴の開始が男女ともヨーロッパより2年ほど早く、思春期がきてからは成長の伸び幅がそこまで大きくならないんです。なので、思春期をどれだけ遅らせられるか、心身にストレスを与えないで過ごさせることができるか、もとても大切です。 

ーーー知りませんでした。「心身的なストレスを与えない」は、腸をケアする上でも重要なので、意識したいですね。 

子どもの得意・不得意を見極めて運動を楽しんでもらう 

ーーー今と昔で比べると、子どもたちの運動量の増減はどのように変化していますか? 

世良:完全に二極化していて、運動する子はするし、しない子はしません。体力テストの結果を見てみても、運動量は平均すれば減っていると思います。 

ーーー地方と都市で変わりますか? 

世良:それはあると思いますね。ただ、どっちが良くてどっちが悪いという話ではないのかなと。運動しない子は何をしているかというと塾に通っている子も多いし、運動をする子はスポーツチームなどに入り、家族や学校とは違う環境で、家で過ごすのとは違う生き方、社会を経験して世の中を生きていく力が鍛えられるんじゃないかなと思います。 

ーーーなるほど。子どもにも得意・不得意があることも考えると、運動をすることが正解と断言できるわけではなさそうですね。 

世良:そうですね。外遊びじゃないことが得意な子どももたくさんいます。運動もやり過ぎはよくないことを考えると、運動自体が完全に体に良い、とも断言できないんですよね。ただ、体に悪いほど運動をやりすぎることは稀なので、多くの子どもに運動をしてもらいたいと思っています。ただその時に、一人ひとり成長の速さも得意不得意も違うので、子どもの運動機能(首が座る、歩くのが早い、遅い)には差があるので、その子にあった運動ができるようになってほしいです。 

母子手帳に最低限のことは書いてありますが、必ずこの時期にこれをやりなさい!とは言いづらいですね。あくまでも子どものことを考えて、個々に合った運動・生活習慣をするのがおすすめです。 

子どもの健やかな成長のためには、腸内環境を整え、水分摂取を意識することが重要である 

ーーー子どもの成長と腸内環境はやはり重要ですか? 

世良:まず大前提として、子どもに限らず、大人もそうですが、自分たちの体を作っているのは間違いなく食事です。空気から体重が増えることは決してありません。 

なので、「子どもの成長」において重要なのは食事です。体の中で最も大きな臓器は筋肉ですが、その次に大きいのが消化器。消化器官を整えることは体にダイレクトに影響を与えるので、腸内環境を整えることは子どもの成長にとって大切なんです。 

ーーー子どもの頃から食育を通じて消化器を鍛えることが大事なのですね。 

世良:基本的にどんな世代でも関係なく、食事はちゃんとバランスよく食べていたらOKだと思います。もちろん一般人とアスリート、運動習慣のある人とでは、タンパク質の量とか多少の違いはあると思いますが、バランスの良い食事を1日3回摂っていれば問題ないのではないでしょうか。 

それに、バランスの良い食事って何ですかって聞いたら、日本人はわかると思いますよ。 

ーーー確かに。「世代に関係なくバランスの良い食事を適切な量食べることが大切」ということがよくわかりました。 

ーーー便秘に悩む子どもたちは増えているそうですが、食生活だけでなく運動することもケアになりますか? 

世良:直接的にすごい関係しているかと言われると不明ですが、運動は交感神経を亢進するので、その反動で運動後には副交感神経も優位になります。副交感神経優位になると、消化器の働きが良くなるので、腸の蠕動運動が促進される、このロジックで考えると、運動は重要なのかなとは思います。 

一方で、食後すぐに運動をすると、筋肉に血流が持っていかれるので、消化器(胃腸など)への血流が減ってしまいます。その結果、蠕動運動が低下し消化しないことになってしまうので、あまりよくないですよね。 

ーーー食後すぐの運動を避けることが重要…!1日を通して平均的に運動はするけども、時間を考慮する必要がある、ということですね。 

世良:あと、水分を取らないことも原因だと思います。子どもってあまり水を飲まないですよね。ジュースは飲むけど、水分をちょこちょこ飲む子はあまりいない。 

ーーーそれは確かに関係してそうです。子どもの様子を見ながら、食事、水分、運動を調節してあげたいですね。 

世良:何より、子どもの成長を正しく把握すること。自分の子どもが今どういう時期・状況なのか見定めた上で子育てをしてほしいと思います。 

ーーーぜひ、これを読んだ方は今日から意識してみてほしいなと思います。貴重なお話、ありがとうございました!


世良泰 
慶應義塾大学医学部卒業。市中病院にて内科、整形外科の診療や地域の運動療法指導などを行う。スポーツ医学の臨床、教育、研究を行いながら、プロスポーツや高校大学、社会人チームのチームドクターおよび競技団体の医事委員として活動。運動やスポーツ医学を通じて、老若男女多くの人々が健康で豊かな生活が送れるように、診療だけでなくスポーツ医学に関するコンサルティングや施設の医療体制整備など幅広く活動している。