下町のナポレオンの愛称をもつ「いいちこ」を手がける三和酒類。大分県宇佐市に本社を構え、清らかな水と豊かな穀物で酒を醸し、ミクロの微生物と雄大な自然と人をつなぐ企業でもあります。

前後編で三和酒類の「麹プロジェクト」を推進する執行役員、幡手 剛さんにお話をうかがい、土地に根づく企業の在り方や、自然や微生物と結びついて活き活きと働き、暮らすヒントを教えていただきました。

前編はこちら>>
麹を深め、つながる。|三和酒類の「麹プロジェクト」が結ぶ自然と生物【前編】

山々に囲まれた酒造場

▲山々に囲まれた酒造場

生物とつながることが、未来の行動を決める

ーー麹プロジェクトとは何かをお聞きしてきましたが、お客さまへ大々的にアプローチしていくわけではないのですね。

そうですね。「これが麹プロジェクトだ」「麹を考えよう」と発信するのではなく、商品を手に取っていただいて、パッケージ、Web記事ヘと興味をもっていただけるのが理想です。社内でマインドを作れば、自ずとお客様へ伝わるようなものだと思います。

取材スタッフは工場見学にも参加。社員の皆さんのお話もうかがいました
▲取材スタッフは工場見学にも参加。社員の皆さんのお話もうかがいました。

▲取材スタッフは工場見学にも参加。社員の皆さんのお話もうかがいました。

ーーここからは、もう少し三和酒類の文化について詳しくお聞きしたいです。工場見学をして、お話をうかがって感じたのですが、水や森など、大分の土地や自然もすごく大事にされていますよね。

私たちにとって、当たり前のようにやるべきことをやっているという感覚ですね。お酒づくりは酵母や麹が主役で、菌が元気に活動できるよう私たちが世話をしなくてはなりません。

それなら空気は綺麗なほうがいいから、排気ガスを減らしてクリーンな環境を作ろう、「雑菌が増えないように掃除しよう」という行動が自然に出来てきます。

私たちがつくるお酒は、菌をはじめ、水、米、麦などの自然の恵みによってできていますから、それを中心に考えるのです。

「こうしなさい」と決められた行動やチェックポイントが明確にあるわけではありません。たとえば「掃除しなさい」と言われると、「掃除」を部分的に捉えてしまい、本当の意味が理解できないままになってしまいます。

生き物がうまく成長することを考えると、もっと視野が広がります。

これは社是などにも書かれていますが、最終的な理解は自分たちで考えていくことなのです。

近年は、プシュッと開けてすぐいいちこの炭酸割りが味わえる「いいちこ下町のハイボール」も人気

▲近年は、プシュッと開けてすぐいいちこの炭酸割りが味わえる「いいちこ下町のハイボール」も人気。

チームへの想いが募って、会社への愛に

ーー働く中で個々で自然や生き物のことを考えて実行するのは、なかなか難しい部分もあると思います。それが会社の文化として根づいているのは、本当にすごいです。幡手さんもお話の端々に愛を感じます。ご自身の会社への愛の源はどこにあると思われますか?

なにかに挑戦するときに一緒にいるメンバーって、大事だと思うんです。同じ想いを持ってる人と達成感を味わうと、チームへの想いが募って、また新しい取り組みがはじまります。

ーーその相乗効果で会社がどんどん好きになっていくのですね。

そうですね。私の近くに、日々会社のことを考えて、自分たちはどう変わるべきかという話を毎日のようにしてくる人がいます。そうして、ずっとなにを考えているか。

働いて幸せな会社でありながら、お客さまも我々の商品で幸せになってほしいという想いを達成する方法を探しているんです。

ーー自然を大切にするお話から、どんどんお客さまへつながってきました。

当社には「世界を“Wa”でいっぱいに。」というパーパスがあります。

和やかな時間の「和」、語り合い絆を深める「話」、人と人のつながりを生む「輪」、故郷や環境をたいせつにする「環」、世の中にワクワクをつくり出す「わっ!」を生み出す、私たちの存在意義を表しています。

ーーこれまでのお話が集約された言葉ですね。

▲社屋のオープンテラスを出ると、そこには美しい山なみがありました。

自然の営みから見つける答え

人と人はもちろん、自然と人とのつながりも豊かにしていかなくてはいけません。私はそこの山の向こうに住んでいて、生まれも育ちも宇佐です。県内でも有数の農業エリアなんです。米や麦が採れて、山間部には果樹園があり、世界農業遺産にも登録されています。

私たちの商いは農業あってこそ。

たとえば、当社の日本酒「和香牡丹」は、あえて酒米ではない地元の飯米を使い、技術でそのおいしさを引き出しています。そこには地元への愛であったり、地元や自然への感謝であったりがあるんですよね。

ーー自然を間近で見てご自身の仕事につながっているからこそ、感じる想いもありそうです。

ずっとここに住んでいますからね。

でも、私がスローペースに生きる重要性を感じ始めたのは、実は最近なんです。

どうしても移動は車中心なのですが、少しの移動を自転車や徒歩に変えたら、見える風景も変わりました。それまでは仕事が忙しいこともあり、時間をショートカットするのが日常だったんですけど、見逃しているものも多かったのでしょう。

ゆっくり進むことで目を向けるものが増えて、発見もたくさんありました。春はこんな花が咲いてるとか。夏の匂いが感じられるようになったなと、心が豊かになりました。それは、豪華な食事をしているときよりも贅沢な時間です。

こうした自然の営みの実感の中に、私たちが求めている答えがあるのかもしれません。


■幡手剛(はたで・つよし)
三和酒類株式会社 執行役員 CCRN Design Center部長
入社後、焼酎造りから品質管理、営業まで一通り経験をし、現在CCRN Design Centerにて調査・広告・広報業務を管轄している。同時に焼酎・スピリッツ事業のデザインリーダーという役割も務め、トータルでのブランディングを担当中。
趣味という趣味はないが、凝り性もあってこだわりものをカスタマイズするのが好きで、ドイツ製スーツケースを個人で修理をしたりミニベロの自転車はフレーム以外交換したりするほど、見た目に似合わず手先が器用である。
最近では一人別府アンバサダーを謳い、食や温泉を県外のお客様に案内して、大分の魅力発信に貢献している。 

三和酒類コーポレートサイト:https://www.sanwa-shurui.co.jp/
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撮影 : 栗原美穂