前回は時間栄養学の考え方と、朝型、夜型について、社会的時差ボケについて教えていただきました。 

▶︎時間栄養学とは?社会は夜型にはつらい?朝型・夜型のチェック方法も解説【時間栄養学専門家・田原優先生】 

そこで、より具体的な生活と睡眠にフォーカスしてお話ししていただきます。

 

職場のタイムサイクルにどうやって適応していくのが良いのか 

ーーー傾向として朝型、夜型の人がいることは分かりましたが、職業的にそれが難しい人も一定数いますよね……? 

田原:たとえば看護師さんみたいな、夜勤がある人などですよね。ここも社会的に解決がなんとも難しくて、結局「規則正しく生活してほしい」というのが本音ではあります。 

ーーー夜勤と日勤を繰り返す人もいるじゃないですか。そういう人はどうしたらいいんでしょうか。 

田原:そうですね、おそらく看護師さんなどは、日勤が多い中に夜勤が時々入ってしまう、みたいな働き方をされていると思うのですが……夜勤の時は「徹夜をした」と割り切ってもらうのがいいでしょう。 

ーーー徹夜で仕事(宿題)を終わらせる感覚ですね! 

田原:はい。しかも、夜ってお腹が空いちゃうし、体内時計の影響で甘いものや脂っこいものを食べたくなる。なので、そこをいかに食い止めるかが大切になりますね。 

夜食は体内時計を遅らせる、夜中に食事を摂ること自体太る原因にもなりますので、普段通りの食事時間を守りながら徹夜(夜勤)をしてもらうのが一番です。 

ーーーついつい小腹が空いちゃうだけならいいけど、ほんとにエネルギーが不足して作業効率が下がっちゃうっていう時は、どうしたらいいのでしょう。 

田原:もちろん低血糖で仕事が進まないのも困りますので、エネルギーは補給するしかありませんが。それでもできたら夜勤前にどかっと沢山食べておくのは避けたいですね。。 

あと、夜勤をする人は、夜勤中に長めの昼寝をしましょう、とも伝えています。交代制みたいな働き方だとなかなかハードですが、とはいえ体内時計は1日1時間くらいしか動かないので、ズレを最小限に抑えるように意識しておくしかないですね。 

睡眠負債を抱えないように工夫することも必要 

ーーーお昼寝ってどうですか?(笑)仮眠というか、夜あまり寝てなくて日中にお昼寝をいれる人も一定数いると思うのですが。 

田原:30分以内のお昼寝はおすすめですね。教育現場でもお昼寝は取り入れられていますし。 

ただ、1〜2時間も寝てしまうと、それは実は良くないです。心臓系の疾患リスクにもなると言われています。人間って夜まとめて寝る生活をしていて、分けて寝ることには慣れていないんですよね。あと、30分より長く寝てしまうと睡眠慣性(起きた後も脳がしっかりと目覚めていないこと)が起こるので、おすすめしていません。 

ーーーなるほど。程よくお昼寝は取り入れつつ、基本は夜まとめて寝るのがいいんですね。 

田原:もちろん、ショートスリーパーのように、あまり寝なくても平気な人はいますが、基本的には人間は寝ないと死んでしまう。若いと気にならないですし、ある程度年齢を重ねていても、頑張ったら働けてしまう。ただ、体は正直で寝不足は確実に蓄積しています。これがいわゆる睡眠負債と呼ばれるものです。 

ーーー睡眠負債。割と今問題視されていますよね。 

失った睡眠は取り戻せるが、週末の寝だめでは足りない… 専門家が語る、睡眠負債の返済方法|ビジネスインサイダージャパン 

田原:あまり自覚されていない人も多いんですが、結構問題です。睡眠負債を抱えている人や、普段寝不足の人って、昼間勝手に寝ちゃうんです。車を運転してると寝そうになる、家に帰宅すると気づいたら寝ちゃうなど、いろんなパターンの人がいます。そういう人たちの睡眠時間を聞くと、明らかに足りていない。 

ーーーえ、なんか怖いですね……自分は大丈夫って思っていても、気づいた時には遅かったってこともありそうです。 

田原:日本人の睡眠時間は7時間ちょっとで世界的に見ても短い。本当に毎日の睡眠が足りていますか?と自問自答してもらいます。毎日何気なく寝てるかもしれませんが、私たちの体に大きなインパクトを与える要因。今一度、寝る時間(量)だけでなく時間帯(いつ)も振り返ってみてほしいですね。 

とはいえ、本当に忙しい人っているじゃないですか。例えば働きながらママもしている人って、本当に時間がない。気づいたら寝るのが遅くなってしまう……。しかもそういう人は寝ようとしても眠れないと訴えることもあります。そういう人には早寝の努力ではなく、早起きしてもらう、そうすると夜に疲れて段々と眠れるようになる可能性があります。 


田原優|広島大学大学院 医系科学研究科 准教授 
2013年、早稲田大学にて博士(理学)。2013年より早稲田大学 助手、助教、University of California Los Angeles 助教を歴任。2019年より早稲田大学准教授。2022年より広島大学准教授。常にヒトへの応用を意識しながら、時間栄養学の確立に携わってきた。現在は企業と連携し、公衆衛生学も取り入れながら、時間栄養学研究の社会実装を目指している。著書に【体内時計応用法(杏林書院,編著,2022)】【体を整えるすごい時間割(大和書房,2019)】