発酵食品は匂いや食感、味わいにクセがあるものが多く、健康への効果に魅力を感じながらも敬遠する人は少なくありません。湘南にカフェやショールームを構える「Shonan Soy Studio」は、その代表格の納豆を新しくデザインするブランド。「SOYFFEE™(ソイフィー)」や「ナットウジャーキー」など、従来の納豆のイメージを打ち破るアイテムを開発しています。伝統的なスタイルを継承するだけが、日本の食を伝えることなのでしょうか?これからの展開などもあわせて、代表の小野岡 圭太さんにお話をうかがいました。
海外のトレンドから納豆の魅力と課題に着目
▲代表の小野岡 圭太さん。「Shonan Soy Studio」は次世代納豆「SOYFFEE™」や「ナットウジャーキー」など納豆菌を軸にした商品を開発。他社のブランディングをサポートするデジタルコンテンツ事業、カフェ事業も展開しています。本社は湘南の古民家を改装し、週末は販売店舗として営業。
ーー「SOYFFEE™」は納豆とコーヒーという新しい組み合わせの商品ですが、なぜ納豆に注目したのですか。
小野岡:私は18歳まで湘南に住んでいて、アメリカへ留学しました。これまで、カリフォルニア、ニューヨーク、イタリア・ヴェローナに住んだ経験があり、海外を旅していたこともあります。
2009年から2014年ごろまで滞在していたアメリカではヴィーガンが定着していて、ヘルスコンシャスがトレンドでした。豆腐、枝豆、納豆や味噌などの日本で100円で売っているような食品を、多くの人たちが500円で買う世界があり、そこで日本の食品の魅力に気づきました。
ーー海外では今でこそ日本の”豆腐”は人気ですが、納豆ってどんなイメージだったんですか?
小野岡:ニューヨークに渡った頃、ニューヨーク・タイムズで「納豆食べて長生きしよう」という記事が出ていました。でも、納豆ってネバネバしていて、食感も匂いも独特ですよね。実際に従来の納豆は海外の方には受け入れづらく「蜘蛛の卵みたい」「3日寝かせた靴下の臭い」という反応が返ってきます。
海外出身の友人も臭いが理由で食べれなかった人たちが多く、そこの課題を解決し、日本の魅力を広めようと開発したのが新しい納豆「SOYFFEE™」でした。当初は会社員として働きながら、「Shonan Soy Studio」を立ち上げ、軌道にのったので昨年退社しました。会社自体は今年で3周年を迎えます。
納豆の魅力とは?ターゲットにとことん寄り添うブランドづくり
▲「SOYFFEE™」は乾燥大豆をコーヒーに浸し、コーヒーで煮てから納豆菌で発酵させています。さりげないコーヒーの香りと豆の甘さがあり、納豆の概念が覆る味わい。メープルシロップと好相性で、ケーキとクリームのトッピングにするのもおすすめです。
ーー「SOYFFEE™」はおいしくて、意外性もありびっくりしました。コーヒー味はなかなか辿り着きませんよね。
小野岡:海外の人が嫌う、納豆のあの独特な香りをマスキングするために、かなりいろんな素材にチャレンジしました。コーヒーも最初は浸水するのではなく、挽いたコーヒー豆を一緒に蒸してみたり、試行錯誤しましたね。最終的に、粘りをコントロールするのに複数ある納豆菌を試し、レシピを調整して今の「SOYFFEE™」になったんです。
現在はオフィスの一階にラボスペースがありますが、当初は自宅のキッチンで実験しているような感じでした。食品ではないものの、会社員時代は化学メーカーで似たようなことをしていたので、そのときの技術、研究、開発の思考が活きています。
ーー発酵食品を海外に伝えようとするとき、愛ゆえに伝統そのままを活かしたいと思ってしまいがちです。「SOYFFEE™」は違う形になっているのが、すごいです。
小野岡:私自身が何代目の蔵元だったり、醸造の伝統を継いでいかなきゃというポジションにいないですからね。日本の伝統食を海外の方に知ってもらう状態を目指してはいるものの、良くも悪くもフラットに考えて変えられる状態なんでしょうね。
私のゴールは、日本の伝統食や日本の良いところが海外に広まっている状態を作ることです。既存のものを横展開するのではなく、ギャップがあるものを私たちのフィルターを通してリデザインできるところがひとつの価値でもあります。だからこそ、最初に感じていた課題にシンプルに向き合いました。
海外展開を視野に小売店での販路を拡大
ーー日本と海外では“発酵”という言葉の価値観が違いますよね。そのあたりは、どう考えていらっしゃいますか?
小野岡:そもそも、発酵食品のカテゴリ分けがないんですよね。私の経験で、欧米はチーズもワインもピクルスも発酵というカテゴリの箱に入れて考えていない方が大多数です。一方で日本には発酵食品という一つの箱があります。
日常での意識も違って、発酵食品が体にいいと認識したのも最近です。私自身、ニューヨークのレストランで働いたことがあり、麹漬けのチキンを提供していましたが、“発酵”自体のイメージが湧かない方も多いです。それでも、当時から納豆の存在を知っていて、ネガティブなイメージを持っている方がいるのは事実です。
「SOYFFEE™」自体はまだ海外展開はしていないものの、先日食の展示会で海外の方にもサンプルを食べていただきました。そうするとみなさん、そのおいしさと意外性に大興奮で好評だったんです。
ーー今後の海外展開は、どのようなステップを考えていらっしゃいますか?
小野岡:フードマイレージの問題もありますし、現地生産しないと本当の意味で広められません。海外へ進出するなら、メーカーにライセンスを販売して現地で生産してもらうのがいいと考えています。例えば、アメリカならカリフォルニアやニューヨークにも納豆メーカーがあるんです。現地で製造して、ホールフーズなどの大手小売に並ぶイメージです。
そのためには、日本で広めていくことが第一です。流行り廃りに消費されないよう、3年間は湘南にとどめておいたので、ここから少しずつ国内で小売を広げていこうと考えています。国内で文化として根付いてから海外へ行けたらいいですね。
▲【次世代納豆スパイスふりかけ】SOYFFEE Powder + トライアルセット。ギフトにもぴったりで、パッケージにはプラスチックを使用しない環境にやさしい仕様です。
ーー今後が楽しみです。最近、国内では発酵食品の新しいブランドが増えているのですが、事業拡大に悩んでいるところも多いと思います。成長させるのに重要なポイントはどのようなところにありますか。
小野岡:商品購買の意思決定の中で、大きな軸が4つあると思っています。価格、機能、デザイン、倫理感です。家電を思い浮かべたらわかる通り、日本のブランドは価格と機能が得意なんです。
一方でデザインや倫理感が弱いことが多いと感じています。私たちはデザインを理由に買ってもらう、ボルヴィックのように社会貢献につながるから買うといった倫理感を軸にして、購買層を獲得していくことを考えています。
私たちの開発しているアイテムは常用食ではないので、お土産やギフトの方向性を持ちつつ、置いておきたくなる、誰かに教えたくなるようなデザインにしています。
また、購入いただいた利益の一部は寄付をして、子ども食堂に大豆をお渡しするなどしています。
同じ価格でもエシカルな消費を考える方は増えていますし、それが当たり前になっていくと思います。
ーー 日本でもそうした動きは強まっていきそうですね。今の世の中の流れをみても、小野岡さん率いるShonan Soy Studioさんの取り組みはお手本になりそうです。小野岡さん自身の今後についても教えてください。
小野岡:私自身の人生において、ひとつは機会格差是正、ふたつめは海外に日本の良さを伝えたいという2つのゴールがあります。やる気があるけど環境などが理由で、チャレンジできないことがない社会にしたいんです。
人生の中で仕事は手段です。これからもライフゴールを叶えるために、進んでいきます。
小野岡 圭太(おのおかけいた)
1990年生まれ。高校卒業後、単身渡米し、カリフォルニアとニューヨークで大学生活を送る。大学卒業後、外資系化学メーカーで経営企画、マーケティング、法人営業を経験した後、起業。日本伝統食を発酵を強みに、現代の市場向けにデザインする食品スタートアップ「株式会社Shonan Soy Studio」と、プライベートホテルを建設、設計、運営する会社「株式会社norm.」の2社を設立し、東京・神奈川・山梨を拠点に活動中。
Shonan Soy Studio 公式:https://www.shonansoystudioinc.com/
Instagram:https://www.instagram.com/shonan_soy_studio/