大分県中津市に建つ5棟のビニールハウス。熱帯に近づけた蒸し暑いハウス内には、300本の青パパイヤの木が植えられ、茂る葉をかきわけて見上げると鈴なりに青パパイヤがなっています。新農業プロジェクト「ベーベジ」は、青パパイヤ専門でハウス栽培しています。アスリートのセカンドキャリアを支援するために、スポーツ誌を手がけるベースボールマガジン社が立ち上げ、現在は尾方さんが事業を引き継いでいます。前後編で、「なぜ元アスリート支援に青パパイヤなのか?」をうかがい、酵素たっぷりのスーパーフード青パパイヤの魅力や農業の可能性を探ります。

青パパイヤは、成長が早くどんどん実がなります。収穫量は年間30tほど。各地の百貨店などに出荷されます。

▲青パパイヤは、成長が早くどんどん実がなります。収穫量は年間30tほど。各地の百貨店などに出荷されます。

農業で元アスリートのモチベーションをつくり出す

ーー元アスリートの支援を目的にベーベジを立ち上げたとお聞きしました。なにか、きっかけがあったのでしょうか?

私は現在、大分県でパパイヤ農家をしています。数年前までは、ベースボールマガジン社で人工芝の販売施工を行う建設事業を担当していて、農業従事者でもなく、大分にゆかりもありませんでした。当時、ヨーロッパで流行っているハイブリッド芝システムがあり、それを完成させるヒントがありそうだということで、営業も兼ねて大分を訪ねました。

そこで、ユニークな苗を作っている農業関係者から、「アスリートのセカンドキャリアに農業はどうですか?」と言われたんです。「国産のパパイヤやバナナはあまり出回っておらず、収益性がある」と。

ーー別の目的で訪ねた大分で、農業と出会ったんですね。

その頃は、元野球選手の薬物問題が取り沙汰された時期でした。現実問題、これまでアスリートは引退後に不祥事起こしたり、起こさないまでもよからぬ人に金銭を騙しとられたりしているのを見てきました。現役の頃に比べると、非常に大変な思いをされてる方が多く、農業はこうした問題の解決の一手になるのではないかと希望を感じましたね。地方で元アスリートが自身の経験や人脈をフルに活用すると、地域貢献にもなりお互いにプラスに作用するとイメージしたんです。

ーー大分で農業のご提案がある前から、元アスリートのセカンドキャリアを支援する事業は検討されていたのでしょうか。

これまでいろいろと検討してきました。元プロ野球選手や元オリンピックの選手を当社に採用したこともあります。良い形で辞めていかれる方もいますが、多くの方は長続きせず、社風や業務にフィットしないまま辞めていきました。

ーーアスリートという職業から全く新しい業界に飛び込むのは、並大抵のことではないですよね。アスリートの方は飲食業へ転向されるケースも多い印象ですが、農業を選んだ決め手はどういったところにありますか?

現在栽培している青パパイヤは、スーパーフードともいわれる食材です。食物繊維が豊富で栄養価も高く、さらにはタンパク質や脂肪分、糖分を分解するさまざまな酵素が含まれています。

アスリートは自身のコンディションを考えて食べ物を選び、摂取しています。そこで、農業で自分の経験とこだわりをもって野菜を作り自らの手で販売していくことが、新しいモチベーションになりやすいんじゃないかと考えました。

ーー今、一緒に働いている元アスリートの方はいらっしゃいますか?

高校野球でプロを目指していた方にお願いしていましたが、今はいないんです。これからご縁を通じて探そうと検討中です。

ビニールハウス5棟の中でパパイヤを栽培しています。

▲ビニールハウス5棟の中でパパイヤを栽培しています。

元アスリートが地域に貢献できること

ーー農業は軌道にのるまでに時間がかかると思いますが、はじめてみていかがでしたか。

農業はというと軌道にのるまで数年はかかりますし、勉強もしないといけません。パパイヤは比較的栽培しやすく、近隣の栽培の経験者の力もお借りして、なんとかやってこれました。

ーー尾方さんご自身、初めての農業ですよね。

体が都会の体になっていたので、農業を無理なくできるようになるまで2年ほどかかりました。朝早く起きて、夕方暗くなるまで体を動かし、単純な作業を続けなければなりません。成長の早い植物でハウス栽培ですから休みもなく、楽しめるようになるまでは本当に大変でしたね。今は自分で1日の作業内容や今後の動きが予測でき、同じ単純作業でも時間が過ぎるのも早いんです。

ーーご自身も経験されて、農業が元アスリートに向いていると感じられたところはありますか。

自分が食べるものを自分で作っているという自信はつきますし、そのおいしさを知るというのは重要です。心身ともにひとつの支えになると思います。

ーー意識が変わりそうですよね。

あと、私が面白いことが起こりそうだと期待しているのは、地元の方との交流です。実感としてこの事業の出発がベースボールマガジン社だとわかると、読者だった皆さんが親近感を持って接してくださいます。困ったときに相談しやすく、協力をしてくださる体制が自然にできる。知名度のない状態で移住した人と比べて強みでもあると思います。ちょっとしたコミュニケーションや輪の広がりがスムーズに進むはずです。

ーー元アスリートの方が関わることで、外から農業を見る目も変わりそうです。

メディア関係者が視察にきてくれるだけでうれしいですね。メディアに取り上げられると、県外に知ってもらうきっかけにもなりますし、応援してくださる方も増えるでしょう。

また、元アスリートと仕事をするのは、業務上で良い刺激がもらえるとともに、どこか誇らしい気持ちになれます。私たちのハウスは、就労支援施設で働く障害をもつ方にもお越しいただき、手を貸していただいていることもあり、多様性をもちながらお互いに刺激し合えるような関係を築きたいと考えています。

若い枝からも小ぶりなパパイヤの実がなっています。

▲若い枝からも小ぶりなパパイヤの実がなっています。

青パパイヤの魅力を全国へ。今後はひよこ豆栽培も

ーー今後はどのように活動される予定ですか?

引き続き、元アスリートの支援ができる体制を整えることと、最近は青パパイヤ以外の栽培も検討しています。腸内環境を整え、健康でいるためには、ひとつの食材に偏ることなく、さまざまな栄養をとり入れることが大切だと学びました。有力候補は、国産が少なく栄養価の高さが注目されるひよこ豆です。安定して運営できる土壌を築いていきます。

これらを叶えるためにも、まずは青パパイヤがみなさんの食卓にのぼるようにしたいですね。現在は百貨店などで扱っていただいていますが、全国に認知を広げてさらにその輪を広げていきたいです。

後編では、味わいだけでない青パパイヤの魅力と農業と土壌ついてうかがいます。


■ 尾方 利光(おがた としみつ) 

ベーベジ 代表 

1969年生まれ、熊本県出身。大学卒業後、小学生から大学まで続けた柔道やスポーツへの貢献をしたく1992年総合スポーツ出版社のベースボール・マガジン社入社。雑誌の広告営業やイベント企画・運営の業務を経て、出版以外の新規事業の開発部門で勤務。2017年にその一つである農業生産法人(株)ベーマガフューチャーファームにも在籍。2022年5月からパパイヤ栽培事業を引き継ぎ、ベーベジとしてアスリートのセカンドキャリアとして農業事業を提案する仕組み作りに奮闘中。
趣味は、自然の中で遊ぶことと食べること。

撮影 : 栗原美穂