おいしさと健康と美しさを届ける「フードコスメORYZAE(オリゼ)」は、米麹を活かしたやさしい甘みのグラノーラや、麹ソース、甘酒を提案する麹食品ブランド。ブランドを運営する株式会社オリゼ代表取締役の小泉 泰英さんは「麹の魅力について、あえて熱く語らない」と話します。ブランド誕生の経緯から今に至るまで、小泉さんの米と麹、微生物にかける想いをうかがいました。

「ORYZAE(オリゼ)」がフードコスメと名乗るまで

▲米麹由来の甘味料とオートミールで仕上げた「ORYZAE GRANOLA」のアールグレイとバナナココナッツ。発酵食を意識せず朝食やおやつに気軽にとり入れられ、腸活にも繋がります。中央はドレッシングやソースとして使える「ORYZAE-SALT-」

▲米麹由来の甘味料とオートミールで仕上げた「ORYZAE GRANOLA」のアールグレイとバナナココナッツ。発酵食を意識せず朝食やおやつに気軽にとり入れられ、腸活にも繋がります。中央はドレッシングやソースとして使える「ORYZAE-SALT-」

ーーはじめに、小泉さんが発酵や麹を扱うビジネスを立ち上げた経緯を教えてください。

小泉(敬称略):私自身はもともと発酵好きというより、お米が大好きでした。

お米がおいしく食べられる背景には、おいしいお米を作る人がいる。そのサイクルがこの先もずっと続いてほしいと思っていました。現代のライフスタイルの変化によりお米の消費量が減る中で、「どのようにお米の消費を増やすか」は大学時代から課題に感じていたんです。

私は農大出身で、日本独自の麹産業がなぜ数百年単位で経営が続けられるのか、という企業活動や歴史、文化的な切り口で発酵を研究していました。その当時、醸造学科の友人と日本酒を飲む機会がよくあって。日本酒はお米と麹でできているんですけど、友人と発酵に関する話をずっとしていたあの時間も、麹に強く興味を持つきっかけになっていますね。

ーーお米が動機なんですね。最初から麹なのかなと思っていただけに、意外です。

小泉:はい、実はそうなんです。そして、そこから自然とお米を消費する新たな一手として麹が結びつき、ビジネスコンテストに応募しました。お米からできる米麹を取り入れていけば、新しいお米の需要を生み出せると思ったんです。お米を食べましょう、と喚起するのではなく、米麹で新たな多様性の提案ができるのではないかと。

現在のブランドの原型ともなった麹食品を提案したところ、それが優勝して、実際に商品化しました。会社を立ち上げて今に至ります。

ーー麹の機能や歴史を前に出すブランディングではなく、最初からフードコスメというコンセプトがあったのですか?

小泉:立ち上げ当初はマタニティ向けのブランドでした。初期フェーズは少しずつ販路が広がって順調に成長し、生協などでもお取り扱いいただけるようにもなりました。でも、創業から3年ほどたったときに「発酵食や麹が好きな人にしか届かないんじゃないか」と思うようになったんです。

オリゼの人気商品・塩麹ソース

小泉:発酵や麹のブランドやプロダクトは訴求の仕方やブランディングによって、好きな方は熱狂的で、興味のない方には届きにくくなってしまうことがあります。そうすると、業界内で“麹好きのお客さま”という同じパイを奪い合うことになってしまいますよね。

もっと発酵や麹に興味関心がない方にもプロダクトを手に取ってもらいたい、そしてもっと普遍的なテーマで事業に取り組みたいと考えて、リブランディングに踏みきりました。

麹を語らない。数百年先も求められる企業に

麹を語らない。数百年先も求められる企業に

ーーフードコスメという言葉は、どのように考案されたのでしょうか。

小泉:私たちが企業として事業を展開する大前提に、「100年、300年と長い目で考えたときに世の中の人に役に立つことでないとやらない」という考えがあります。「健康になりたい」「美しくいたい」というのは、平安時代から現代まで、そしてこれから1000年後も人が持ち続ける欲求だと思うんですよね。発酵や麹はそれに応えるものでもあり、フードコスメにつながる文脈が生まれました。

ーーターゲットをギュッと絞って、思い切ったブランディングですよね。小泉さん自身、日本の発酵文化や麹について伝えたいことも多いのでは?と思うのですが。

小泉:あえて、発酵や麹の魅力を熱量を持って伝えることはしていませんね。すでにバックボーンを持って伝えている醸造家や研究者はいるので、その役割はそういった方にお任せしようと考えています。私たちは全く興味のない層へ伝えることこそが、発酵や農業に関わる人たちのお役に立てるところじゃないかと。

オリゼの人気グラノーラ

小泉:一方で私たちも発酵や麹について伝えたいことはたくさんあるので、リーチしたお客さまにどのように伝えていくかは今後の課題です。また、事業がスケールしていくに従って、私たち自身が伝えていくことも必要になってくるでしょう。

ーー入口の役割を担う意味でも、ブランドとしては語りすぎないようにしていらっしゃるんですね。ブランドではなく、小泉さんご自身ではどうですか?

小泉:私自身は、発酵、麹、微生物がすごく好きです。でも同じ理由で、講演やワークショップなど外で語る場は作っていません。社内の研究チームとは熱く議論したり、語ったりするので、それでお腹いっぱいな部分もあります。

未来のエネルギー資源としても期待

未来のエネルギー資源としても期待

ーー小泉さんの考える、これからの微生物や発酵の可能性について教えてください。

小泉:先にお話した大学時代の同級生とはルームシェアをしていたのですが、彼はいま業界トップの酒造で活躍しています。彼は当時から「微生物はおいしいものを作るための環境サポートをしている」という職人の精神をもっていて、毎日のように、微生物や麹の可能性について語り合っていました。

私は議論の中で、サステナブルな社会を目指していく上でも微生物が活躍する未来に希望を抱きました。世の中の食物連鎖のピラミッド構造で、残ったゴミを分解してくれるのは微生物たちで、私達人間が申し訳なく生み出してしまったものを本来あるべき形に戻してくれる存在です。ゴミをただ物理的に小さくするだけでなく、分解して再利用できる形に変えられるってすごいですよね。

ーーなるほど!食だけでなく、環境への期待もあるんですね。

小泉:そうですね。コンポストなどで発生する微生物の熱は今後のエネルギーとしても期待できますし、あらゆる社会や環境の課題に微生物は欠かせない存在になるでしょう。未来のオリゼの可能性として、微生物や発酵を軸として、食品事業だけではなく、化粧品、医薬品、長い目でエネルギーやバイオ事業も手がけていけると思います。

そのためには、まずは食品の事業として成長していかなくてはなりません。ORYZAEの米麹グラノーラはその一歩です。

ーー予想していたよりも、ビジョンが大きくて驚きました……

小泉:300年後の水を作ると思って、今の事業を進めていますね。エネルギー事業の展開まで考えると私個人に残された時間は限られています。なので、今やるべきことを立ち止まらずに進め続けて行こうと考えています。

ーー未来に向かって着実に歩まれているんですね。小泉さんのこれからのご活躍と、ORYZAEの発展を楽しみにしています!ありがとうございました。


小泉 泰英(こいずみ やすひで)

株式会社オリゼ 代表取締役
1997年埼玉県出身。宇都宮大学農学部農業経済学科在学中から、発酵を活用したビジネスアイデアで、第5回とちぎアントレプレナー・コンテスト最優秀賞を受賞。その後、宇都宮大学発ベンチャーとして、株式会社オリゼの前身である株式会社アグクルを創業し、2018年より現職。「社会を発酵させる」をミッションに、微生物と共に循環する社会を目指す。米麹を活用した商品を多数展開するD2Cブランド「フードコスメ ORYZAE(オリゼ)」を運営。

フードコスメORYZAE ウェブサイト:https://oryzae.shop/
公式Instagram:https://www.instagram.com/oryzae_foodcosme/

(撮影:栗原美穂)