大分県中津市に建つ5棟のビニールハウス。熱帯に近づけた蒸し暑いハウス内には、300本の青パパイヤの木が植えられ、茂る葉をかきわけて見上げると鈴なりに青パパイヤがなっています。

新農業プロジェクト「ベーベジ」は、青パパイヤ専門でハウス栽培している企業です。アスリートのセカンドキャリアを支援するために、スポーツ誌を手がけるベースボールマガジン社が立ち上げ、現在は尾方さんが事業を引き継いでいます。

前編では「なぜ元アスリート支援に青パパイヤなのか?」をうかがい、後編ではAuBの研究統括責任者研究員である冨士川凛太郎さんと、青パパイヤの魅力と腸とのつながりについて語り合いました。

前編はこちら>>

大地の恵みを受け取る。|なぜアスリートのセカンドキャリアに青パパイヤ栽培なのか【前編】

収穫期に近づいた青パパイヤの実

▲収穫期に近づいた青パパイヤの実。

青パパイヤで感じた体の変化。おいしく健康リスクを低減

冨士川さん:青パパイヤの栄養価は素晴らしいですよね。「もっと食卓に」とお話しされていましたが、ご自身でもよく食べられますか?

尾方さん:以前はタイ料理で食べるくらいでしたが、今は毎日のように食べています。レシピ研究も兼ねて、いろいろな食べ方を試しました。サラダや甘酢漬けはもちろん、お好み焼き、キムチもおいしかったです。

肉は煮込むとパパイヤの酵素で溶けてしまうので、固いお肉を使うのがおすすめ。鍋にするなら、しゃぶしゃぶしてパパイヤの千切りを巻くのが良いですよ。

冨士川さん:お肉と一緒に食べるのは、腸内環境にとってもいいことですね。お肉などタンパク質は摂り過ぎると大腸にいる悪い菌のエサになってしまって、おならが臭くなってしまいます。おならが臭い状態が続くと、腎臓にもダメージがあり、健康にもよくありません。

中でもお肉は塊で食べるので、大腸に届きやすい食材のひとつです。青パパイヤの酵素が消化を助けると、小腸できちんと吸収されて大腸に届きにくくなります。豊富な食物繊維が菌の餌にもなってくれるので、2つの意味で腸内環境に良い作用があります。

まさに腸活をしたい方にはぴったりですね。

尾方さん:私も妻も大分に移住して青パパイヤを食べるようになってから、明らかに体に変化がありました。二人に共通しているのは便通の改善です。私は軟便だったのですが、今では快調な日が毎日続いています。

東京にいる頃から高血圧で医師の指導もあり、食物繊維をはじめ栄養バランスを考えた食事を心がけてもなかなか改善しなかったので、これには驚きましたね。

冨士川さん:すごいですね。便通がいいと、大腸癌や腎臓、肝臓の病気の予防や免疫力のアップにつながり、あらゆる不調のリスクを軽減します。

「野菜を摂ろう」と考えて、キャベツやレタスをたくさん食べるケースがあるのですが、これらは水分が多くて期待するほど食物繊維は多くありません。

野菜を摂ること自体はいいことなので、同量で多くの食物繊維が摂れる青パパイヤに、一部を置き換えてみるのもいいかもしれませんね。

青パパイヤと土づくりのことをイキイキと話す尾方さん

▲青パパイヤと土づくりのことをイキイキと話す尾方さん。

植物と土、腸と微生物の関係は似ている?

冨士川さん:普段、青パパイヤをどれくらいの量を食べられてますか?

尾方さん:毎日50gほどだと思います。青パパイヤだけで100g食べようとするとかなりの量になるんです。いろいろな野菜を食べた方がいいと学んでからはそれを参考にして、他の野菜とバランスよく食べることにしています。

冨士川さん:さまざまな種類の野菜を食べることはすごく大事ですね。私たちは、1ヶ月で100種類の野菜を摂ってほしいと言っているくらいです。たくさんある野菜の中のひとつとして、栄養価の高い青パパイヤを選択してもらえると嬉しいですね。

丁寧に育てられている畑を実際に拝見して、改めてそう思いました。

尾方さん:来ていただけてよかったです。お話していて、植物と腸は似ているなと感じました。

冨士川さん:まさにそうなんです。土を育てて根に栄養を与えることが、私たちが研究している腸と腸内細菌の関係と重なってくるんですよね。実は植物と腸はすごく似てるといわれています。

植物は細い根が広がり、表面積をできるだけ大きくして、栄養を吸い上げられるようにできています。人間の小腸は広げるとテニスコート1面分に相当するといわれていて、そこに絨毛(じゅうもう)という毛のような突起があります。

これが植物と同じく表面積を広げ、栄養を効率よく吸収できるようになっているんですね。

さらに腸が吸収するこの栄養は、食べものを腸内細菌や酵素が分解して生み出したものなんです。微生物が活動する腐葉土を加えて土をつくることと、私たちが青パパイヤやヨーグルトを食べて腸内細菌を育てて腸内環境を整えることは、非常に似ています。

根っこがはっきりへこんだら、腐葉土を足して栄養を補給していく

▲根っこがはっきりへこんだら、腐葉土を足して栄養を補給していく

果実を手にして知る、私たちが生かされている実感

尾方さん:確かに似ていますね。土に住んでいる微生物を元気にすると、青パパイヤがよく育ちます。成長が早いので腐葉土をたくさん与えて土をつくっても、短い期間で栄養がなくなり根のあたりの土がへこんでしまいます。

根や葉に直接栄養を与えることができないわけではありませんが、それでも自然に近い土づくりは重要なんですよね。

シャワーのように栄養剤を葉にふりかけたり、根っこに向けて直接ノズルを挿したりもでき、実は私も過去に挑戦しました。ただ、土づくりをしたときよりも成長はするのですが、食べたときに苦味が出てしまいます。

冨士川さん:味が変わってしまうんですか。

尾方さん:そうなんです。短時間で大きくしようとすると、いろいろな障害が起こるんだと勉強になりました。その方法はやめていますが、味のためにも土づくりは大切です。

今、世界的に土がどんどん減っているといわれています。岩が砕けて小さくなったものと、木や葉、動物の死骸が混ざって一緒になって、大分のこの土地のようになるのは本当に何十年もかかるでしょう。

農業に携わる方はみんなそうかもしれませんが、なるべく自然に近い形で、地球にあるべき姿で作物を育てていくことにしています。

冨士川さん:最後に、青パパイヤ栽培に携わってご自身で変わったことを教えてください。

尾方さん:農業を始めて実感したのは、自分の力では何も解決できないということです。

種もゼロから作れないですし、土に植えてお天道様が照って、私ができるのは水をあげて土づくりをすることだけです。これだけしかしてないのに、全然形の違う形で青パパイヤができるのは摩訶不思議に感じられます。

自然に考えを巡らせると、土の中に入っている菌や太陽の光など、「いろいろなものに生かされてるんだ」という気持ちになります。

大袈裟に聞こえると思いますが、体験するとわかりますよ。こんな気持ちになるのは、青パパイヤ栽培をはじめて自然の循環を体感できるようになったからです。


■ 尾方 利光(おがた としみつ) 

ベーベジ 代表 

1969年生まれ、熊本県出身。大学卒業後、小学生から大学まで続けた柔道やスポーツへの貢献をしたく1992年総合スポーツ出版社のベースボール・マガジン社入社。雑誌の広告営業やイベント企画・運営の業務を経て、出版以外の新規事業の開発部門で勤務。2017年にその一つである農業生産法人(株)ベーマガフューチャーファームにも在籍。2022年5月からパパイヤ栽培事業を引き継ぎ、ベーベジとしてアスリートのセカンドキャリアとして農業事業を提案する仕組み作りに奮闘中。趣味は、自然の中で遊ぶことと食べること。

撮影 : 栗原美穂