2015年の創業以来、アスリートの腸内細菌の研究と「すべての人を、ベストコンディションに。」にすべく進み続けるAuB株式会社 代表・鈴木啓太。2022年に立ち上げた、体調管理情報サイト・goodchoでは、鈴木の素顔に迫ります。彼の考える体調管理や腸内細菌、ビジネスの成功と失敗、事業を進める上での戦略やチャレンジについて語ってもらいました。 

「腸を整えることの大事さ」は、全ての人が知らないといけない、必修科目である 

「腸を整えることの大事さ」は、全ての人が知らないといけない、必修科目である 

鈴木は社内で「啓太さん」という愛称で呼ばれている 

――きっと何度も聞かれてきたと思うのですが、改めて啓太さんがAuBを設立した想いを、アツく教えてください 

鈴木:アツくですね(笑)わかりました。 AuBは、幼少期の頃からの教えでもあり、サッカー人生で経験・体感した「腸を整えること」の大切さを、多くの人に広めていきたいという想いで、2015年に設立した会社です。 

​​「うんちを集めて研究している会社だよね?」とよく聞かれるんですが、まさにその通りです(笑)。​ 

▶︎AuBの会社概要はこちら 

とにかくアスリートの便を集めて4年間は商品やサービスを作らずにひたすら研究。もっと端的に言うと、うんちを集めて調べまくっていました(笑)なんだそれと思われるかもしれませんが、おかげで、今ではAuBが抱えるアスリートの検体数は2000を越えて、世界トップクラスを誇ります。そこから導き出されたデータを情報化して、商品リリースに踏み切ったのが2019年。腸のコンディションを整える「aub BASE」や、食物繊維ミックスである「aub GROW」、マルチ栄養素プロテインの「aub MAKE」。2023年2月には2歳〜6歳までの子どもの腸内環境を想い立ち上げた「aub for kids」というブランドで、商品を展開しています。 

――どうして「うんち」に着目したのでしょうか? 

プロサッカー選手として最後のシーズンを過ごした2015年6月頃、“うんちの記録アプリ”の開発者と出会ったことが理由のひとつでしたね。 

日頃から親しくさせていただいているトレーナーの方に「調理師をしていた母親の影響で、幼少期から自分の腸内環境や排便を気にかけている」と伝えたら、便秘に悩む女性に向けにうんちの記録アプリを開発している方を紹介してくださったんです。すぐにアポイントを取り、数日後にその開発者の方とお話させてもらって。「肉体的な特徴があったり他人と異なる生活をしている被験者を調べると、大きな発見に繋がることがある」という言葉にハッとしたんです。 

アスリートである僕自身も “特徴的な被験者”そのもの。なので、アスリートの身体を調べたら何か新しい発見があるかもしれないというワクワク感が芽生えてきて、「さまざまなアスリートの腸内環境を研究することで、人々の健康に繋がるサービスができるかもしれない」というアイデアが思い浮かびました。そして、数人の仲間と一緒に会社を立ち上げることにしたんです。 

――アイデアが生まれてから会社を立ち上げると決意するまで、どれくらい時間がかかりましたか? 

鈴木:実は、アプリの開発者の方とお会いした1週間後には、もう「会社を作ろう」と決めていました(笑)。そこからいろいろと準備を進めて、その年の10月に会社を登記してアスリートの腸内環境の解析を始めるという流れですね。 

――1週間…!社内でも、啓太さんの思い付きから行動までのスピードが速いと話題になりますが……なぜ、思いついたアイデアを実現するために、すぐ行動に移せるんですか? 

鈴木:元々僕は、“熱しやすく冷めやすいタイプの人間”。なので、直感的な閃きのようなものを大切にしています。あとは、やっぱりこれまでの経験ですね。 

例えば、幼い頃から腸内細菌のサプリを飲んできたこともそうですし、アテネ五輪予選のとき(2004年3月5日・UAE戦)に、大切な一戦を前に僕と数人を除いたチームメイトが腹痛に見舞われる惨状を目にしたことも、その要因のひとつです。 

そして自分自身がベテランと呼ばれる30代に突入したとき、それまで以上にコンディショニングに気を配るようになって、ヘルスケア領域の重要性をより強く感じていたことも大きかったですね。 

これまでに歩んできた人生経験やさまざまな条件が重なって、会社の設立に繋がっていると思います。 

引退後すぐは、サッカー界に関わるつもりは一切なかった 

引退後すぐは、サッカー界に関わるつもりは一切なかった 

―― AuBを創業した2015年に啓太さんは現役を引退していますが、最初から事業1本でやっていこう!と決意したんですか? 

鈴木:いや、実際はそんなことなくて。「あと2〜3年はサッカーを続けられたらいいな」と思ってプレーしていましたよ。 

なので、AuBは現役の選手だった時期に設立しましたが、あくまでも創業者の1人、「面白そうなビジネスを見つけたから一緒に取り組んでくれる人を探そうかな」という気持ちでしたね。なので、まさか自分が社長として経営に携わっていくことになろうとは想像もしていませんでした。 

ーーえ、そうだったんですね!なんで、経営者一本に絞ろうと思ったんですか……? 

鈴木:僕は常に、鈴木啓太という人間として何ができるのかを考えていて。その中のチャレンジのひとつが、会社を経営している立場に立つことでした。

――なるほど。それこそサッカー界で新たなキャリアを歩むことを考えたことはなかったんですか?一般的にはサッカー界に残り続けるのがスタンダードなのかなと思うのですが。 

鈴木:たとえば、指導者としてサッカー界に残る選択肢ももちろんありましたが、その選択肢は違うなと思ったんです。サッカーやスポーツ界のことはすごく好きですし、育ててもらった恩もありつつ、「もし引退したら一度はサッカーの現場から離れよう」と早い段階から決めていましたね。 

――意外です。それはどうしてですか? 

鈴木:冷静な視点でサッカー界を見たときに「鈴木啓太という1人の人間ができることは、果たしてどのくらいあるんだろう?」という疑問を抱いたことが一番の理由ですね。 

サッカー界に残るということは、言い換えると後進の選手を育てたり、ピッチの外から選手たちをサポートして、サッカーの新たな歴史を作る仕事に携わることだと思うんですが、ピッチの上で何かを形にしたり、そのために全力で情熱を注ぐ自分の姿がどうしても思い浮かばなかった。 

それと、自分の歩んできたストーリーを考えてみたときに、僕には別のピッチがあると思いました。

――別のピッチ?というのは? 

鈴木:それが、コンディショニング(腸を整える)という領域です。 

さっきも言いましたが、僕自身、幼少期から腸を意識して育ちましたし、日本代表時代ではアテネ五輪の予選で腹痛の事件(*)があって、選手の立場で自分のコンディションについて真剣に考えてきた。そんな僕がサッカーの現場で仕事をするよりは、自分にしかできない“腸活”という仕事に取り組むことで多くの人の役に立てると思いましたし、​​ひいてはコンディションを整えることの重要さを広く伝えていくことがサッカー界のためになるのではないかと感じたんですよね。 

(*)2004年3月5日に行われたアテネ五輪アジア最終予選のアラブ首長国連邦(UAE)戦にて、代表選手全23人のうち18人が原因不明の下痢の症状を訴えた。キャプテンだった鈴木は、日頃からサプリメントを摂取するなど腸内環境に気を遣っていたことから難を逃れ、腸の大切さを実感。 

新たなピッチに飛び込む|経営者として走り出す苦悩、ワクワク、そして緊張 

新たなピッチに飛び込む|経営者として走り出す苦悩、ワクワク、そして緊張 

――サッカーではなく腸内細菌の世界でプレーをすることに決めた啓太さんですが、サッカー選手から経営者に転身して、最初から順風満帆でしたか? 

鈴木:いろんな取材で「順調だったんですよね」と言っていただくのですが、全然そんなことはなくて。僕はずっとサッカーをやってきていて、ビジネスはいわば初めての領域。もちろん最初は苦労しました。例えば、当時社員がいなくて、ボードメンバーしかいなかったんです。ボードメンバーもそれぞれ仕事があるし、なんだか中途半端になってしまって。前に進めたい!という気持ちがありながら、時間を結構かけてしまったのは今でも反省しています。

ーー新しい世界に飛び込むことって人にとってはハードな側面がある中で、どうやってその苦難を乗り越えたのかが気になります。 

鈴木:「自分がこの事業を伸ばして、すべての人をベストコンディションにする」という強い気持ちが大きいからかもしれないですね。当時の僕は事業規模や収益、市場などを検討せずに始めましたが、僕を含む3人の設立メンバーと一緒に話し合いを重ね、僕自身も研鑽を積んで、ここまでやってこれた気がします。 

――なるほど……最初の4年は研究に費やして着実に準備をしてから、商品をリリースしているところからも、啓太さんのデータや実績に対する熱い思いを感じています。 

鈴木:そうですね。ワクワク感をきっかけに会社を立ち上げたこともあって、僕たちにしか作れない商品を作ることに対する強いこだわりはありました。 

もちろん、当時メンバーからは「最初に商品を出した方が良いのではないか」という意見もありましたが、僕はAuBが生まれたきっかけでもあるアスリートの腸内細菌の研究にまずは注力してから、商品を出したいと思っていたんです。こだわりが強い分、いろんな苦労を経験した時期でした。 

ーー苦労・・・?どんな苦労ですか? 

鈴木:ビジネスをどうやって進めていくのか。今でこそ、BASEや、GROWなどの商品を出していますが、当時は研究を進めた後のビジネスの作り方がわからなかった。めちゃくちゃ悩みましたし、いろんな人に話を聞きにいって、思考していました。 

データが出揃ってきて眺めると、やっぱり一般の人とアスリートでは、腸内細菌の多様性や傾向に違いがあることがわかって(*)。この違いを人に説明している時に、「あ、サプリメントを作ろう!データを表現する方法として、サプリメントだ!」と思い、BASEを作ることになったんです。

2019年12月 aub BASE新商品発表会の様子 

2019年12月 aub BASE新商品発表会の様子 

ーー研究データを元に開発されたサプリ「aub BASE」を2019年12月に発売しましたが、その時はどんな感情でしたか? 

鈴木:最初に抱いたワクワク感はありつつ、緊張していました。アスリートからデータを預かり、そこから導き出されたものを形にして世の中に出せる喜びがあったものの、それが実際に受け入れられるのか?という緊張ですね。でも今は、人々の腸活への取り組みの後押しができることに喜びを感じています。 

――ワクワクと緊張。確かに、最大のこだわり部分である「最初の4年はひたすら研究」から、商品化は長い年月をかけた分いろんな感情があったと思います。 

鈴木:一貫して言えることは、僕って本能を信じてるんですよね。物心が付く前から備わっていた?ものや、自分の好きなもの、感動するもの……そういった言語化できないものも含めてさまざまな要素が重なり合って今の僕やAuBがあると思います。もちろん、失敗もたくさんしてきましたし。 

さらに突き詰めていくと、結局は自分が何を求めて生きるのか?という「生き方」に辿りつくように感じます。 

ーー啓太さんは体と心のセンサーがかなり敏感だなと、日頃から見ていて思います。では、もう少し啓太さん目線での会社の内側について深掘りさせてください! 

■鈴木啓太 AuB株式会社 代表取締役
東海大学付属静岡翔洋高校卒業後の2000年に、J1リーグ・浦和レッドダイヤモンズに加入し、2015年の引退まで在籍。2002年にはアテネ五輪を目指すU-23日本代表に招集され、最終予選ではチームのキャプテンを務める。2006年に日本代表に初選出されると、オシムジャパン(2006〜2007年)では選出メンバー唯一の全試合先発出場を果たす。2015年シーズンに現役を引退。現在は自身の経験から腸内細菌の可能性に着目し、AuB株式会社を設立。アスリートの腸内細菌の研究によって、さまざまな方に向けて良好なコンディションの維持や、パフォーマンスの向上を目的とするビジネスを展開している。