甘酒や塩麹がトレンドになって以降、“発酵”を自身の活動の軸にする人も増えました。発酵に興味をもち、深く学んだ人々は、今どのように活動しているのでしょうか。以前インタビューさせていただいた「発酵食大学」の卒業生にお話をうかがいます。第1回目は、広島県在住の森岡秋博さん。おいしいを第一に「押しつけない発酵をモットーとしている」と教えてくださいました。

発酵食大学とは?

発酵食大学でおこなわれる蔵見学の様子
▲発酵食大学でおこなわれる蔵見学の様子

発酵食大学は2013年に石川県金沢市で開講しました。金沢市のある本校、京都校などで発酵食を体系的に学ぶことができます。月に一回講義があり、半年間かけて学ぶメインのカリキュラムのほか、ステップアップして県立大学や近畿大学の大学教授から講義が受けられる大学院、気軽に参加できる通信部などがあります。

発酵食大学について詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください

発酵や菌の楽しみかたは人それぞれ|多くの人の日常に寄り添いながら、発酵食大学が伝えたいこと

納豆のアレンジから塩麹へ。どんどん発酵の深みに

森岡さんご自身でつくられた鶏ごぼう混ぜご飯。森岡さんはインスタグラムで創作レシピを積極的に発信している。
▲森岡さんご自身でつくられた鶏ごぼう混ぜご飯。森岡さんはインスタグラムで創作レシピを積極的に発信している。

ーー発酵に興味をもったきっかけを教えてください。

日本人であれば、意識せずとも発酵に触れていると思いますが、一番最初に強く興味を持ったのは納豆でした。

納豆を食べるときに卵やネギを入れるのが一般的ですが、当時は野菜や焼き魚、ポテトチップスなどを混ぜて、色んなアレンジをすることにはまっていました。その中で納豆麹にたどりつきました。納豆に米麹や昆布、醤油、みりんなどを加えて漬け込んだもので、自分で仕込んでみたらすごく美味しかったんです。

そこから「麹ってなんだろう?」という疑問から調べるうちに、塩麹や醤油麹にも興味が湧いてきました。しばらくは自己流でつくっていたのですが、インターネットや書籍では自分がつくってるものが正解なのかわからない部分があり、実際に触れてみたいと考えはじめました。そのタイミングで出合ったのが、発酵を学べる発酵食大学です。最初に納豆にはまってから2、3年後のことでした。

ーー広島在住で石川県のスクールへ通われたんですよね。

そうですね。週末を使って通えるコースがあり、同様に遠方から来ている方もいました。参加している生徒さんとも交流があって楽しかったですね。

ーー実際に学ばれていかがでしたか。

想像していたよりも詳しく勉強できました。表面的なものだけでなく、栄養や微生物の観点からも学べ、県立大学や近畿大学の大学教授が講師の授業もあったので、専門的な知識も得られたと思います。誰かに発酵食品の説明をするときに役立っています。

ただ、資格取れたから何かを得られるわけではないので、その後自分でどれだけ実践していけるかにかかっていると思います。

森岡さんのご自宅に飾られている発酵を仕込むための密封ビン。色々試すうちに増えていったそうで、こちらはあくまでも一部分。
▲森岡さんのご自宅に飾られている発酵を仕込むための密封ビン。色々試すうちに増えていったそうで、こちらはあくまでも一部分。

誰かに押しつけず、自身で深めていく。卒業後の活動

ーー卒業後はどのように学びを深めていらっしゃいますか?

主には、日々の料理で新しい創作レシピにチャレンジしています。外へ発信する活動として、お弁当やお惣菜の販売を計画していましたが、コロナ禍で難しくなり、現在は本業のかたわら音楽イベントなどで発酵食品を使ったおつまみを提供しています。

ーーお料理はもともとお好きだったのですか?

そうですね。家族の食事をつくるのも、発酵食大学に入る前から私が担当しています。発酵にはまったのをきっかけに、発酵食は毎日の食事にも取り入れていますが、私の中では一般的に使われている調味料や調理法と同じ感覚です。マヨネーズやケチャップを使うのと同じ選択肢のひとつとして、塩麹や醤油麹を使います

普段から料理を作る、食べる上でも家族に押しつけることはしません。むしろ何も言わずに発酵調味料を使った料理を出して、「おいしい」と言ってもらえたら、陰でガッツポーズをしています。

「おいしい」から深め、続ける発酵

実際のイベント出店の様子。音楽イベントなどで出店中で、「牛肉のトマト煮込み」「ブルスケッタ」などを提供。
▲実際のイベント出店の様子。音楽イベントなどで出店中で、「牛肉のトマト煮込み」「ブルスケッタ」などを提供。

ーー発酵に感じる魅力は人それぞれですが、森岡さんは「料理」が軸なんですか?

発酵食大学でも、私が面白いと感じたのは、発酵調味料を使った創作レシピを発表する授業でした。先生と、参加している生徒さんにも食べてもらい批評しあう授業で、飲食関係者や主婦の方など色んな人が集まっているので、色んな意見が聞けましたね。

今も、創作で良いレシピができたとき、家族や出店したイベントで「おいしい」と言われるときが一番楽しい瞬間です。単純に嬉しいですよね。

今まで発酵に興味を持ち続けているのも、自分で作って食べていて、おいしいからだと思います。美容や健康のためではないので「食べないと!」というノルマはありませんし、暮らしの中で楽しんで使っていたら、自然と健康や美容につながっていたようなイメージです

ーーイベントでの出店ではどのように発酵のことを伝えていますか?

「発酵を広めたい」と思う一方、塩麹や醤油麹を知らない人もまだまだ多いので、イベント出店の時はあえて発酵を前面に押し出していません。

食べてくれた人から「何を使っているの?」と聞かれ、その返答に味噌や塩麹などが登場して、発酵食品に興味をもっていただくことが多いです。

ーー自然な流れで発酵に触れて「おいしい」と思ってもらうのは理想的ですね。

さりげないフックを用意するなど、発酵を押しつけないための表現や線引きにも、かなり気を遣っています。メニュー名も「発酵〇〇」「麹〇〇」といった形では出さないようにしています。

ーーキャッチーさに頼りすぎると、本当に伝えたい部分が置き去りになってしまうこともありますものね。

発酵という言葉に引き寄せられて「よし、やるぞ」といって構えてしまうと、続かないことも多いと思うんです。私自身もそういった経験があります。だから、「おいしい調味料を知った使ってみよう」くらいではじめて、少しずつ日常になっていくのがいいですよね

実は私の住む広島県はそこまで発酵文化が石川県ほど根付いていなくて、そのきっかけを私がつくれたらと思います。

ジャンクな味をも発酵で置き換えて家庭料理にアプローチする

ーー今後はどんな活動を考えていますか?

今の活動は続けつつ、ワークショップなどにもチャレンジしたいです。塩麹のワークショップなどはいろいろなところで学べるので、馴染み深い家庭料理に発酵を落とし込むのが理想です。例えば、麻婆豆腐や炒めものなど、レトルトの調味料を使いがちな料理を発酵調味料で簡単につくれるレシピを考案して、それを教えられるといいなと考えています。砂糖を甘酒に、塩を塩麹に。ちょっとジャンクな料理も発酵のおいしさで置き換えられるといいなと思っています。

ーー創作レシピと「おいしい」で発酵にふれる料理、森岡さんにぴったりなアイデアですね。今後のご活躍を楽しみにしています。ありがとうございました。


■森岡 秋博(もりおか あきひろ) 

1981年生まれ 広島県出身。2018年春に発酵食大学で発酵食を学んだあと、イベント出店などを通して、発酵食の環を広げるべくモーリー食堂として活動中。「暮らしに自然とある発酵食を心がけ、“発酵のチカラ”で楽しく元気になろう!」をモットーに、発酵の魅力を発信。今後は、お弁当・お惣菜販売やワークショップなども計画しており、発酵食レシピを創作しながら、日々奮闘、日々発酵している。