酸味があって個性的な風味のする微炭酸。コンブチャは古くからある発酵ドリンクで、近年はノンアルコールや腸活などの文脈で注目を集めています。

創業100年以上の大泉工場が手がける「_SHIP」は、“未来を醸す発酵スパークリングティー”としてコンブチャを広めるべく活動しているブランド。ブルワーの門田 元さんと広報の高橋 まどかさんに、立ち上げの経緯やコンブチャの魅力をお聞きしながら、発酵を通じて社会のことや自分らしさを考えます。

本記事は前後編でお届けし、前編では「_SHIP」のブランド立ち上げから現在に至るまでのお話をうかがいました。

後編はこちら:コンブチャを醸す理由【後編】|発酵体験を広める「_SHIP」のこれから

「_SHIP」はナチュラルな原材料にこだわったKOMBUCHAブランド。オリジナル、ユズ、シソ、クワの全4種類で、日本で唯一、非加熱製法にこだわった専用ブルワリーで醸造しています。オンラインショップや直営店、一部小売店で購入できます。

お話をうかがったのは、ブルワーの門田 元さん(右)、広報の高橋 まどかさん(左)

もっと面白い事業を。4代目が受けたコンブチャの出会いと衝撃

ーー貴社はとても幅広い事業を展開されていますよね。なぜ、コンブチャブランドを立ち上げたのでしょう?

高橋 まどかさん(以下、高橋):埼玉県川口市は鋳物(いもの)の職人が多い土地柄もあり、古くは鋳物産業で成長してきました。時代とともに不動産業をはじめ、4代目の大泉寛太郎が代表取締役となった2008年ごろから、飲食事業なども展開するようになりました。

現代表の大泉寛太郎が会社を引き継いだときに「もっと面白い事業もやっていきたい」と感じたようです。例えば、後世に残すような付加価値があったり、社会のためになるような事業にチャレンジしたかったのだと思います。

また不動産を扱っていることから、現代表は当時の代表であった母から「自社の土地を“豊かになること”に使うように」と言われていました。私たちの企業のビジョンは「​​素敵な環境を創造する」であり、そのためにいくつかプロジェクトを進めていく中で、2018年にコンブチャブランドを立ち上げたという経緯があります。

ーーコンブチャに着目されたのは、なぜでしょう?

高橋:現代表が新規事業のヒントを得るために渡米したことがきっかけです。現地のものを求めてコンビニやグローサリーストアに通ううち、コンブチャに遭遇しました。勇気を出して飲んでみたらおいしくて、なんだか体に良さそうで、頭もスッキリするような感覚になったそうです。

よほど衝撃的だったのだと思います。日本へ持ち帰って、コンブチャを輸入して販売する計画が進みかけましたが、残念ながらその時は販売がかないませんでした。

時を経て、新規事業として改めてブランドの構想が立ち上がったのが2016年。クラフトビールのブルワーに手を借りて「_SHIP」が形となって販売されたのは2018年です。当初はビールのようにタップから注いで楽しんでいただく想定だったんです。そこで環境も考えた上で、飲食店向けに樽で販売をスタートさせました。

門田 元さん(以下、門田):発酵させて作るので、発売からしばらくは品質が安定しませんでした。同じ素材と工程で作っているのに思うようにいかず、お取引先から怒られることもありましたね。

他の発酵食品のように長く歴史の続いたものであれば、先人のノウハウがありますが、私たちはほぼゼロからのスタートでしたから……。

前例のないコンブチャのボトル販売に挑戦|文化を繋ぐプライド

ーー樽で販売したのちに、ボトルでも販売をはじめられたんですよね。

高橋:そうです。ブランド立ち上げから2年後の、2020年にボトルでも販売をはじめました。

ーーなぜ、一般の方向けにボトルで販売されたのですか?

高橋:代表がニューヨークで感じた、あの高揚感をもっと多くの人に伝えたいという部分が大きいと思います。自宅で飲みたい人にも届けられて、暮らしの中で習慣化できる形にしました。

門田:ただ、ボトルにすると飲食店向けに卸すのとは違って、購入して持ち運ぶため、温度変化が激しいんですよね。このあたりの調整にも苦心しました。

製造免許を取るのが難しかったです。実はブルワリーのある川口市が清涼飲料水の工場を認可したことがなく、原材料も珍しいので手探りなことが多くありました。ボトルにコンブチャを詰めるための充填機のメーカーにとっても珍しいものだったようです。

そもそも当時はコンブチャを販売すること自体、他に例がありませんでした。非加熱の発酵したドリンクを流通させるための手続きは時間もかかりましたし、難しかったですね。

ーーさまざまな壁にぶつかっても、ブランドを続けてこられたのはなぜでしょう?

高橋:ブランドを育てることが、「多くの方の健康やより良い暮らしにつながる」と、確信があったのもあります。加えて、代表は直感タイプで、コレと決めたら情熱をもってブレずに進みます。そうした姿勢に私たちもついていっている感じですね。多くの事業でトライアンドエラーを繰り返しているので、今回こそはという気持ちも強いです。

門田:私たちは先人たちの取り組みや想いを聞いて、今も続く文化を繋いでいきたいというプライドがあります。今でこそ、他にもコンブチャを作っているブランドはありますが、私たちのようにボトルでここまで流通させているところはなかなかありません。

日本では、まだまだコンブチャ自体の認知が低く、「昆布が入っているの?」といわれることも多いですが、やるからにはトップを目指して自信を持ってやっていきたいです。

日常に寄り添う味わい|健康文脈でないコンブチャの伝え方

ーー「_SHIP」のオリジナルを飲ませていただいたのですが、私が知っているコンブチャより、飲みやすい味わいでした。味わいも、いろんな方に広く受け入れてもらえるようなイメージで作られているのでしょうか。

門田:従来のものは、パンチがあって刺激的ですよね。「_SHIP」のコンブチャは「クセが強い」と思われる部分をマイルドにし、ワインなどを参考に余韻や香りを大切にしています。コンブチャの場合、ワインではオフフレーバーといわれる雑味のような香りや味わいも、うまくバランスをとるとおいしさに繋がるんですよね。

一方で、うまみや刺激が強い味わいはあえて避けています。食事の邪魔をせず、日常的に飲んでも飽きない、背中に手を添えてくれるような立ち位置を目指しています。

ーー「_SHIP」のコンブチャは「おいしい」と「体にやさしい」のバランスがいいなと思います。現在は、どんなお客さまが多いですか?

高橋:圧倒的に女性が多いですね。当社運営のグローサリーストア「大泉工場NISHIAZABU」ではカフェや量り売りで提供していて、土地柄、毎朝ボトルにコンブチャを入れるビジネスパーソンもいます。

門田:トレンドになる前から開発しているので、後付けにはなってしまいますが、最近はノンアルコールドリンクとして飲まれる方も増えましたね。

ーーコンブチャ自体は、きっと「体にいい」をきっかけに理由に飲みはじめる方も多いですよね。

高橋:コンブチャを飲むのが習慣になって、暮らしが健やかになったという方もいらっしゃいます。

門田:ただ、「_SHIP」は基本的に健康や美容効果は謳っていません。「酢酸菌がなにに効くか?」「どの成分が体にいいのか?」と聞かれることもありますが、発酵の根本的な魅力や商品ができた背景がわからないままだと、聞いている方も話している方も面白くないですよね。

ーーコンブチャや「_SHIP」のことを、お客さまへどのように伝えていますか?私は「発酵の裾野を広げるには、どうしたらいいのだろう?」って考えることが多くて。

門田:コンブチャの作り方は難しいので、馴染みのない方には「お茶でできたワイン」と伝えています。一般的にコンブチャは、お茶に砂糖とコンブチャに使っている、スコピーという菌株(※)を加えて発酵させたドリンクをいいます。

このときの菌は、誰かからスコビーと呼ばれる菌株を分けてもらって、育てていくものです。口伝で伝えて、分けて広がっていく文化があるんです。

「_SHIP」のことも、商品とリーフレットを渡しただけでは伝わらないですよね。ドリンク単体として見ると、「値段が高い」と捉えられることもあるので、やはり潜在層には値段の価値を直接伝えることだと思います。

※菌株とは?
通称:スコビー(Symbiotic Culture of Bacteria and Yeastの略) コンブチャを作る過程で発生する、酵母由来のセルロース膜。 コンブチャの発酵過程における副産物

後編は「_SHIP」のこれからと、ワークショップや菌体験を通じて、「発酵を当たり前のものだということが、徐々に人に認知されていく」お話についてうかがいました。

▶︎コンブチャを醸す理由【後編】|発酵体験を広める「_SHIP」のこれから


門田 元(かどた はじめ)
株式会社大泉工場 _SHIP KOMBUCHA 醸造担当
1989年生まれ、京都府出身。2009年ファッションの専門学校を卒業後、ファッションブランドでのアシスタント勤務を経て、醗酵技術を使用する本藍染めを習得するために京都の工房に入る。着物を中心に、有名アパレルブランドの染色を行う。2018年から当社KOMBUCHA事業に参画。目に見えない微生物のチカラが生み出す感動体験を、生地ではなく人の心に染めるべく、日々コンブチャを研究中。コンブチャの次にメガネ集めが好き。

高橋 まどか(たかはし まどか)
株式会社大泉工場 広報担当
1998年生まれ、大泉工場が本社を置く埼玉県川口市出身。学生時代には栄養士の資格を取得し、スポーツコミュニティの運営に携わる。食と健康への強い関心と「繋がりを生み出し、ファンを増やす」というPRへの憧れから、2021年に入社。大泉工場ファンを増やす、地元川口を盛り上げるべく日々奮闘中。趣味は、ランニング、トレイルランニング、食べること。

公式サイト:https://oks-kombuchaship.com/
Instagram:https://www.instagram.com/_ship_kombucha/
Twitter:https://twitter.com/_SHIP_kombucha
Facebook:https://www.facebook.com/kombuchaship/

(撮影 : 栗原美穂)