想像以上に浸透しない状況がもどかしいし、不甲斐ない
――AuBを創業してからというもの、商品のリリースやイベントなどを重ねてきましたが、啓太さんの肌感覚として世間の反応はどう思いますか?
鈴木:まだまだやるべきことはたくさんある、と日々思っています。AuBを創業してから8年経ちますが、AuBだけでなく腸活に関する認識は世間に浸透していないですし……。なんとなく良さそう、という理解ではなく、根本的な体調管理方法として腸活を実践してもらいたいんです。なので、腸活に関する情報を僕らは発信し続けていかなければならないと思っています。
何より、僕が元アスリートだったということもあって名前は知られているのに、AuBという社名の認知度が同じなわけではない。そこがひたすらもどかしいし、悔しい。力のなさを感じます。
――そうですよね……社内でも腸活に関する世間の認知度やAuBについて知ってもらうためにどうしたらいいのかは課題のひとつです。ほかにギャップを感じることってありますか?
鈴木:やっぱり、腸内細菌に関する市場の成長スピードが思った以上に緩やかなこと。 最近では感染症などもあったので免疫力の領域からも腸に関する人々の興味・関心の高まりはありますが、8年前に思い描いていたよりも腸に対する人々の関心の高まりや、市場の成長速度が緩やかだなと感じます。
僕自身は腸に関するビジネスが成長していく可能性を信じていますが、多くの人に腸活の大切さを理解してもらうまでには「まだまだ時間がかかるんだろうな」と。
これまでにいろいろな方法で僕の想いを発信してきましたし、多くの媒体の方にも取材していただきましたが、もっともっとたくさんの方に腸活の大切さを訴えていきたいと思っています。
腸内細菌市場のこれから
ーーこれから事業を進める中で、腸内細菌市場はどういうふうに進んでいくと思いますか?
鈴木:さっきはややネガティブなことを言いましたが、僕らが目指す方向性は間違っていない。将来的に市場の規模が拡大すれば、そのぶん収益を得られやすくなる事業だとは思います。でも、もしかしたら一般的な事業よりビジネスの難易度は高いかもしれません。
――腸活のビジネス難易度が高い。それはなぜですか?
鈴木:今後は「どうやって腸に良いものを摂り入れるか」に注目が集まっていくと思いますが、見知らぬ新たな商品が売れるというよりは、既に世の中に存在するものが改めて腸活で注目されるという流れが中心になっていく可能性が高いと考えています。
もちろん一般の方々には、自分の生活に馴染みやすいプロダクトを選び、使ってもらうことでまず腸を意識してもらうのが一歩目。一方で、僕らが新しい商品を作らないということはないです。すでにあるものを徹底的に調査・解析して新たなものを作り出すオーソドックスな力が社会から試されていて、すべての人がベストコンディションになるための新たな事業を作り続ける必要があるのです。
――なるほど。あくまでも既存のユーザーの動向からニーズを見出して、新たなものにつなげる。では、これからのAuBには具体的にどんな役割が求められると思いますか?
鈴木:世間の腸に対する関心が高まり、研究が進められていく中で「正しい腸活」や「自分に合った腸活とは何か」という答え探しのお手伝いをすることに尽きると思います。
例えば、講演会をやったときに参加者に「腸活」についての質問をすると、かなりの頻度で「ヨーグルトを食べることですよね?」という返事が戻ってくるんです。確かにそれも腸活の1つですけど、腸活にはもっと広い意味があるはずなのに、それがまだ多くの人に知られていない。腸というものはもっと奥が深くて、毎日の生活の中にあるさまざまな要素が絡み合って存在するものなのです。
AuBではこれまで腸内フローラをケアするためのプロダクトを展開していて、おかげさまで多くのユーザーさんに使ってもらえるようになりましたが、まだ会えていない人はたくさんいるし、すべての課題を解決できているわけではない。泥臭い方法を使ってでも、僕らと一緒に体調管理・コンディショニングを楽しんでくれる人を「増やす」ための取り組みが必要ですね。
――最後に、ちょっと失礼な質問をしてしまうかもしれないのですが・・・?
鈴木:なんでしょう?
――社長になって一番凹んだエピソードを聞かせて下さい。啓太さんを外から見ていると、キラキラしているので、そういった方のリアルを知りたいなと・・・(笑)。
鈴木:めちゃめちゃたくさんありますよ・・・。一番ショックを受けるのは、発信した情報に対して何も反応がなかったり、自分の伝えたい想いが伝わらなかったときですかね。かつてのホームであった埼玉スタジアム2002で「aub GROW(食物繊維ミックス)」を直接手渡ししたんですが、思ったよりも反応が薄かったなあ(苦笑)。僕のファミリーでもあるレッズ・サポーターの皆さんには、特に「いつまでも健康に過ごしてほしい」と思っているんです。愛するチームを後押ししたり、スタジアムで同じ時間を共有できるのも健康であってこそですから。
2022年7月に行った、埼玉スタジアムでのaub GROW配布イベント
――そういえばそうでしたね(笑)人は集まったものの、その後インパクトは薄かった・・・
鈴木:アスリート向けの製品だと思われていた方が結構いらっしゃったんですよ。でも、一般の方に向けた製品であることをお伝えすると、購入してくださった方もたくさんいます。やっぱり、まだまだ伝わっていないことがたくさんある。多くの方に僕らのプロダクトを通して「自分の身体に向き合うことの大切さ」を訴えていく必要がありますね。
――そういった失敗も踏まえて、まだ腸活に取り組めていない方へ伝えたいことはありますか?
鈴木:大切な方と過ごしたり、大きな目標に近づくために健康は欠かせないものですし、失って初めて気付くようでは手遅れになってしまうかもしれません。さまざまな事情を抱えている方もいらっしゃると思いますが、まずは自分の身体や健康状態にきちんと向き合ってみてほしいと思います。
■鈴木啓太プロフィール AuB株式会社 代表取締役
東海大学付属静岡翔洋高校卒業後の2000年に、J1リーグ・浦和レッドダイヤモンズに加入し、2015年の引退まで在籍。2002年にはアテネ五輪を目指すU-23日本代表に招集され、最終予選ではチームのキャプテンを務める。2006年に日本代表に初選出されると、オシムジャパン(2006〜2007年)では選出メンバー唯一の全試合先発出場を果たす。2015年シーズンに現役を引退。現在は自身の経験から腸内細菌の可能性に着目し、AuB株式会社を設立。アスリートの腸内細菌の研究によって、さまざまな方に向けて良好なコンディションの維持や、パフォーマンスの向上を目的とするビジネスを展開している。