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時間栄養学とは?社会は夜型にはつらい?朝型・夜型のチェック方法も解説【時間栄養学専門家・田原優先生】 

ちゃんと眠れていますか?睡眠時間を時間栄養学の視点から深掘る【時間栄養学専門家・田原優先生】 

の続きです。まだ読んでいない方は、そちらからどうぞ。 

ファスティングと時間栄養学の関係は?? 

ーーー体内時計といえば、ダイエットが関連キーワードとしてよく出てきます。たとえばファスティング(食べない時間を作る)も、時間栄養学的に関係していますか? 

田原:もちろん関係しています。 

たとえば、最近流行りの16時間ダイエット。これを最初に言い出した先生は、体内時計研究で有名な先生です。体内時計は食事によって調節されることが知られていたので、毎日8時間以内に食事をするダイエットは、体内時計のメリハリをよくする方法でした。マウスで8時間以内に餌をあげる際に、ステーキのような高脂肪食をあげていても、全く太らなかった、というのが最初の研究です。 

ーーーなるほど、いくら食べても8時間以内なら、体内時計もしっかりで、太らないんですね!! 

参考:時間栄養学とは?社会は夜型にはつらい?朝型・夜型のチェック方法も解説【時間栄養学専門家・田原優先生】  

田原:そうなんです。この太らないという結果はヒトでも実証されています。 

これまで知られていた腹八分目の食べ方は、動物実験では1日おきに食事を与えるというものでした。しかし1日おきに食事を摂ることでどうなるのかという実験を人でやってみようとなったものの、やっぱり辛くて脱落者も多い。そこで出てきたのが、16時間ダイエット(断食)です。 

ーーーなるほど。1日絶食すると、翌日暴食しちゃいそうですもんね……。 

田原:そうですね。人間って1日平均して14時間くらい食事を摂っていると言われています。そこで16時間断食となると、8時間しか食事を摂れない。その結果、朝食や夕食を抜くことが多いですが、案外やりやすいし続けやすい。最近の欧米の時間栄養学というと、この16時間ダイエットが主流になってきています。多くの結果から、肥満と高血圧の改善に16時間断食は効果が確実にあると実証されています。 

ーーー朝食を抜く人が多いと思うんですが、残り2食でエネルギーや栄養素をカバーできるものなんですかね…… 

田原:もちろん低栄養になるのはよくないですが、16時間ダイエットに慣れてくると食事量も減るしお腹も空かないんですよね。先ほどの話では朝食をとった方がいいって言ったものの、16時間ダイエットの継続しやすさで言ったら、やっぱり朝食抜きがやりやすくて続ける人も多いようです。 

ただ、朝〜昼に食べるグループと、昼〜夜に食べるグループを比べると、朝〜昼に食べるグループの方がインスリン機能や血圧改善にはより効果があるという結果もあるので、できたら夕食を抜くか早めるような16時間ダイエットがオススメです。

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ーーー旅行のようなイベントの時に体のリズムが乱れる時とか、どうすればいいんですかね。 

田原:なかなか難しいですね……。これもまた、規則正しい生活をするに尽きるのですが……。 

ちなみに、娯楽で旅行に行くなら、キャンプがおすすめですよ。 

ーーーキャンプ??? 

田原:キャンプへ行くと、夜の人工的な光が減って、夜も早く眠れますし、朝早く起きることができるのでおすすめです。 

腸内環境と時間栄養学の切っても切れない関係 

ーーー時間栄養学と腸内環境ってどんな関係がありますか? 

田原:実は、昼と夜で腸内細菌の組成が違ことが分かっています。(良い・悪いではなく)いわゆる腸内細菌の日内リズムですね。これが、夜ふかしや旅行などで生活リズムが乱れると、腸内の日内リズムが狂い、悪い菌が増えてしまう。 

そして、実は16時間断食をすると、この乱れた腸内細菌の日内リズムが元に戻ると言われています。 

ーーーええ、まさかそんなところに16時間断食が関わっていたなんて!!! 

田原:これは食事で腸内細菌の組成が変わるところに関係しているんですけどね。 

ーーーなるほど……腸内細菌が乱れた場合、早くリカバリーをした方がいいですよね。 

田原:そうですね。たとえば、乱れた腸内細菌ってどんな影響を及ぼすかというと、海外旅行へ行ったヒトの糞便を、マウスに移植すると、そのマウスがどんどん太っていくことがわかっています。つまり、時差ボケ中に肥満になりやすい腸内細菌が増えてくるんですね。 

旅行に行くと肥満になりやすい腸内細菌が増えるだけじゃなく、美味しいご飯もたくさん食べるので、結果として太ってしまいますよね。なので、旅行中も食物繊維やヨーグルトを摂りましょうと伝えています。 

ーーー体内時計→腸内環境、だけでなく、腸内細菌が体内時計に何か影響していたりしますか?? 

田原:影響はあります。たとえば、腸内細菌が水溶性食物繊維(エサ)を食べると短鎖脂肪酸が出てきますよね。この短鎖脂肪酸が、実は肝臓などの体内時計を調節してくれることがわかっています。朝ごはんに水溶性食物繊維を摂ると、体内時計が朝型になってくれることも。 

あとは、肝臓でコレステロールから作られる胆汁と呼ばれる消化酵素には、胆汁酸と呼ばれる有機酸が含まれていますが、これは腸内細菌が代謝して二次胆汁酸に変換されます。そして、これも肝臓の体内時計を調節してくれるとか。 

他にも、腸内細菌が腸の細胞同士の接着の日内リズムをコントロールしていて、腸内細菌がいないとどんどん悪いものが体内に入ってきてしまう……まだまだわかっていない部分もありますが、これだけ関係しているんですよね。 

ーーーちなみに、今初めて知ったんですが臓器ごとに体内時計があるんですね。 

田原:あります。どの細胞にも時計遺伝子があって、リズムを作ってくれる。例えば、腸には食事からとった栄養素(グルコースやタンパク質など)を輸送するものがあって、そういうものの日内リズムを作ってくれています。肝臓も、脳も腎臓もそれぞれ役割ごとに違っています。 

ーーー食事以外で体内時計をコントロールするトリガーは他にありますか? 

田原:光、食事、運動、あとはカフェインですね。朝の光、運動、朝食、コーヒーは体内時計を早めてくれますが、夜の場合、これらが逆効果で体内時計を遅らせてしまいます。 

ーーーあとは先ほどの食物繊維も? 

田原:そうですね、朝食で食物繊維を摂ることで体内時計が調整できます。 

朝一番に食物繊維を摂ると、1日を通して血糖値が低めになりますし、便秘の改善という点でも、夜より朝の方が効果があることもわかっています。ちなみに、朝より夜の方が同じ食事でも血糖値が上がりやすいと言われるので、夜も食物繊維を摂るのがいい……結局三食全てに食物繊維をプラスしてくださいっていう話になっちゃいますが(笑)間食でも食物繊維を摂るのもおすすめですよ。セカンドミール効果で夕食の血糖値の急上昇を控えめにしてくれます。 

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ーーーなるほど。おやつに干し芋やナッツ、雑穀米のおにぎりなどを摂るのは理にかなっているのですね。 

時間栄養学について3回にわたり教えていただきましたが、これからは食事(食物繊維、カフェイン)・運動・睡眠の量だけでなく質にもこだわった体調管理をできればと思います。お話、ありがとうございました!! 


田原優|広島大学大学院 医系科学研究科 准教授
2013年、早稲田大学にて博士(理学)。2013年より早稲田大学 助手、助教、University of California Los Angeles 助教を歴任。2019年より早稲田大学准教授。2022年より広島大学准教授。常にヒトへの応用を意識しながら、時間栄養学の確立に携わってきた。現在は企業と連携し、公衆衛生学も取り入れながら、時間栄養学研究の社会実装を目指している。著書に【体内時計応用法(杏林書院,編著,2022)】【体を整えるすごい時間割(大和書房,2019)】