生きているうちに何度も遭遇する便秘や下痢。自分の体の状態が良いか悪いか判断材料になるものの、お腹の調子が悪いと辛いですよね。
でも、うんちって毎日出した方がいいの?便秘や下痢の時、病院に行くタイミングは?治療法ってどんなもの?
そんなうんちに関するさまざまな疑問を、消化器内科 梶ヶ谷クリニック院長・羽生健先生に聞いてみました。
毎日うんちを出すことは正義ではない
毎日排便がない・・・という悩みが多いですが、そもそも”毎日うんちが出る”ことは正解なのですか?
別に毎日でなくても大丈夫ですよ。
「便秘とは、症状名でもなければ疾患名でもない。ただ、便が大腸に滞った状態。または、直腸の中の便を快適に出せない状態のこと」ってガイドライン(*1)にも書いてあります。なかなか良いこと書いてありますよね。
排便回数が少ない=便秘とは限らないんですよね。便秘の定義の中で、「本来体外に排出すべきうんち」と記載してあるのですが、なんらかの理由でご飯がちゃんと食べられなかったり、腸の中に外に出す便の量が少なかったりしたら、回数も減少するのは当然。だから、回数が少ない=便秘ではないのです。
あとは、お年寄りの人に多いのですが、残便感(偽の便意)を訴えて過度にいきんだりトイレに行ったりする脅迫神経症もあります。結局、腸の中に溜まっているわけでもないのに、うんちしたいなと思う、「うんちが毎日でないと不安症候群」みたいな感じですよね。実際、病院にもこういう感情をもつ人はいっぱい来ます。
羽生先生「毎日出る・出ないということは、全然気にしなくていいんです。」
では、どれくらい出てなければ病院に行くべきですか・・・??
基本的に症状がなければ、別にそこまで心配しなくて良いですよ。
どのくらい、と明言するのはなかなか難しくて。うんちが出てなくてお腹が痛い…そういう時は病院に行くのがいいでしょう。あとは、例えばさっきの女の子の例でいえば、あんまりご飯を食べない中でうんちが出るのは週に2回程度、それでも体調不良もなく生活できていれば、問題ないと思いますよ。
羽生先生「どっちかというと、ご高齢の方でうんちが出ていないことの方が結構気をつけるべきだったりします。」
気をつけた方が良い便秘がある
高齢で便秘・・・これは若い人と何か違いがあるんですか???
便秘にも種類があるけど、一番危険なのが大腸がんによって便秘になっていること。
大腸がんで便秘っていうことは、出口が詰まっている状態です。このパターンは本当に危ない。
特にお年寄りの便秘と下痢は、大体この大腸がん由来の症状に当てはまります。なぜかというと、出口が狭くなってうんちがずっと腸内に溜まり続ける(=便秘)結果、うんちが崩れて少しづつ外に出ていく(=下痢)から。本当にこの症状は気をつけないと結構危ないですね。
羽生先生「例えるなら、ちくわの筒が狭くなってしまう感じですよ。」
出口が狭くなる・・・その理由は何ですか???
大腸の内側へ、がんは進行してしまう。だから、出口がせまくなるんです。
大腸は筒状になっていて、その内側にポリープと呼ばれるものができてくるんです。がんが進行すると、筒の外側ではなくて内側にどんどんできていきます。それがどんどん硬くなると、いつも動いてたはずの腸が動けなくなってしまう。(=蠕動運動ができない!)さらに、その筒が狭くなっていくに連れて、当然本来外へ移動するうんちが動けないし外へ出られない、こうやって便秘や下痢になるんですね。
そもそも、病院に来る便秘の人の特徴はどのようなものがありますか???
ご飯をあまり食べない、水を飲まない、食物繊維も足りてない、ですね。
食事内容もそうですが、あとは腸や胃腸の動きが鈍くなってしまうことも特徴としてあります。さらにこの動きが悪くなる原因としては、他の疾患(例えば精神科など)のお薬も影響がありますね。結構薬を飲んでいるっていう人は、便秘になっちゃうことが多いです。
あとは、朝食欠食、運動不足もありますね。女性の便秘は男性の3.5倍で、排便時間も毎日不規則な人ほど便秘を訴えることが多いです。
逆にいえば、快便の人の特徴もあります。例えば、朝起きてちゃんと出てる人ほど、便秘になりにくい。あとは、一口の咀嚼が30回以上の人も、快便だとか。男性では1500ml以上の水を飲んでいる人ほど快便が多いという報告もあります。
羽生先生「朝ご飯をしっかり食べて、運動もちゃんとすることが結局便秘解消の近道ですね」
便秘や下痢に悩まないためにできること
運動も便秘解消に大切と言われましたが、具体的にどの程度すべきですか・・・??
早歩きやジョギングみたいな、ちょっと息が上がるくらいの運動が良さそうです。
私も意外だと思っているのですが、”適度な運動”は腸の機能に変化をもたらさない、とガイドラインに書いてあります。ジョギングといった活発な運動が、消化管の活動を高めるとのこと。活発な活動は便秘の抑止効果があり、高齢者に対しても便秘のリスクを軽減させることができます。ウォーキングよりも早歩きやジョギングみたいな高負荷な運動をやりましょうねってことですね。
羽生先生「いつもの自分の運動量で判断してもいいかもですね!全く運動しないという人は、早歩きくらいでなんらかの体の変化を感じるでしょう。」
あとはやっぱり睡眠とかも、便秘と関係していますか???
あまり寝てない人は便秘の人が多いですね。
寝つきが悪いと、体内リズムが狂ってしまうからでしょうね。ちゃんと睡眠時間を確保することも、便秘解消の近道なのかもしれません。
. 便秘と下痢、どちらの症状を気にすべきですか???
どちらも大事なんだけど、強いていうなら便秘でしょうか。
下痢は基本的に出てるから、そこまで心配する必要はありません。一番危惧すべきなのは出てないことで、なぜなら、下痢で死ぬことはないけど便秘は死に関係する病気が隠れていることがあるから。(ただし、さっきいったように便秘で下痢になるパターンはまた別問題です)
病院での便秘・下痢治療のリアル
便秘になって病院にいく時、検査の流れを教えてください。
一番簡単なのは、お腹のレントゲン。そこから薬や細かい検査など方針を決めます。
レントゲンで腸内にうんちやガスが溜まっているかどうかをチェックします。
全体的にうんちが溜まっていれば、腸の動きが悪いことによる便秘、なので下剤を処方します。
ある一定の箇所でうんちの溜まりが終わっていれば、大腸がんの可能性が怖いので内視鏡検査やCT検査のような検査をします。
なるほど…そもそも自分で病院に行こう!と思うきっかけは、お腹にうんちが溜まってる感覚があったら、なのですね。
やっぱり、一週間に1〜2回しかでない、が3ヶ月も続いてる、みたいな時は病院にいった方がいいでしょうね。
最初にもいったように、便秘は症状でも疾患でもなく、状態を指しています。明確なきっかけがあるわけではないんだけど、放置しない方が良いこともあるので、そこはしっかり自分のお腹の状態を見て病院に来てほしいですね。正直、ここに正解はないのですが・・・。
便秘の治療ってどのくらいの期間かかりますか???
それはやっぱり便秘の状態やすでに使用している便秘薬の種類によって変わりますね。市販薬の刺激剤をたくさん飲んで、それでも治らないという人を治療するのは難しいですが…
刺激剤って、無理やり腸を動かしているようなものです。そんな刺激剤を用法・容量を超えて飲んでしまうと、痛いものも痛くなくなってしまう。そこで悩んでいる人を治すのは本当に大変です。逆に、薬を飲んでいないあるいは使用頻度もそこまで高くない人たちであれば、あっという間になんとかなったりします。刺激剤ではなく、マグネシウムなどを飲んだらスッキリ、なんてこともありますね。
羽生先生「刺激剤を飲みすぎて、トイレでも下痢しか出ない、数年くらい固形のうんち出てない…となる前に、治療に来てほしいです。」
便秘になったら、病院にいくより市販のものでどうにかしよう!って人もやっぱり一定数いると思うんです。そういう時、病院以外でのケア方法ってありますか?
朝起きてすぐに水を飲むだけでも違いますし、食事内容を見直すだけでも便秘解消あるいは予防になりますよ。
特に小さい子どもの便秘は薬より前に食事指導ですね。ひじきを食べましょうとか、水を飲みましょうと伝えています。
便秘で悩む人は年々増加?それとも減少していますか?
年々増えています。食事や生活習慣の影響は大きいですね。
食の欧米化で、便秘や大腸がんの増加へ繋がっていますね。あとは、高齢化社会なのもあって、お年寄りで便秘患者さんが増えています。
羽生先生「高齢化と食生活の変化が相まって、総便秘人口は増加の一途を辿っていますね。」
便秘にならない体づくりのために重要なこと
便秘を治すために、これだけはやってほしい!というものは?
朝一番の水、これが一番簡単で取り組みやすいのではないでしょうか。
常温でも冷たい水でもいいのですが、とにかく水を飲むことが大事です。最初にもいったように、水分不足がやっぱり便秘の原因、朝一番に口をゆすぐ or 歯磨きをして、水をたくさん飲みましょう。
菌を摂ること、菌のエサを摂ることと便通は関係ありますか??
ヨーグルトや発酵食品をたくさん食べる人で便秘・下痢の人はあまりいないから、関係あるかもしれないですね。このあたりの科学的根拠はこれから蓄積されるでしょう。
菌を摂る(プロバイオティクス)は下痢の人におすすめだし、菌を育てる(プレバイオティクス)食物繊維やオリゴ糖は便秘の人に効果があると考えられます。
ちなみに、子どものうんちの悩みはやっぱり便秘ですか?
新しい環境になるとストレスも多くなることが原因で便秘という子どもは一定数います。
過敏性の腸炎などで、お腹が痛くて電車を途中で降りてしまうなど・・・ストレスとお腹の調子は強く関係しています。他には、3〜4歳でも便秘になるという子どももいますね。なので、外で元気に遊ぶ、起きがけに牛乳で1杯飲ませる、みたいな指導を親御さんにしています。
羽生先生「やはり、小さなうちから便秘・下痢関係なく食事や生活習慣でしっかりお腹をケアすることが大切ですね。」
羽生 健
東京慈恵医科大学卒業。日本外科学会、日本消化器内視鏡学会、日本消化器病学会の専門医。日本消化管学会認定医。日本医師会認定産業医。日本大腸肛門病学会専門医、難病指定医。現在、消化器内科 梶ヶ谷クリニックの院長。
撮影 : 栗原美穂