監修者
冨士川凛太郎 | AuB株式会社 取締役兼研究統括責任者 

1980年生まれ、熊本県出身。2008年、豊橋技術科学大学大学院工学研究科博士後期課程修了。IT企業や経営コンサルティング会社にて、企業の研究資源の事業化に携わる。2016年からAuBの立ち上げに参画。これまで40競技950人以上のアスリートの腸内細菌を検査し、その腸内細菌データを元に人々のベストコンディションを実現させるための研究に取り組む。体力医学会、臨床スポーツ医学会、農芸化学会、分子生物学会、腸内細菌学会など数々の学会で研究成果を発表。

腸内細菌、腸内環境など、腸に関する話題をニュースやCMで多く見かけるようになりました。

理想な腸内環境は人によって違いますが、自分にとってベストな腸内環境を持って活躍する人たちがいます。

それがアスリートです。

アスリートは多くの観客が見守る中、最高のパフォーマンスを発揮し、多くのファンを魅了しています。どんな時でもベストな結果を出すべく、自分のコンディションに人一倍気をつかう、体調管理のプロ。

そんなアスリートの腸内環境について、最近の研究で特徴が明らかにされてきました。

アスリートの腸内環境に関する研究結果を、私たちの体調管理にも取り入れることができれば、

「緊張してお腹が痛い…」

「なんだか疲れやすい…」

「最近寝つきが悪い…」

のような悩みが解決できるかもしれません。

そこで、今回はアスリートの腸内環境が優れている理由や、私たちの生活への取り入れ方を解説します。

腸=第二の脳

腸は第二の脳とも呼ばれ、人間の感情と密接にかかわっていることが多くの研究で判明しています。

例えば、緊張するような場面(テストや会議など)で、お腹が痛くなることはありませんか?これは脳が感じた不安信号が腸に送られ、腹痛となって現れているとも言われています。

そのため、腸を整えること、腸活は緊張に対する耐性や、日々のパフォーマンスを向上させることに繋がるでしょう。

アスリートの腸が優秀な理由

アスリートはパフォーマンス向上に向けて、日々コンディションを整えているプロです。体調を整える習慣が腸の健康も整え、自分にとってベストな腸内環境を作り出します。

実際に多くのアスリートは、試合や本番以外の日常生活でも徹底した管理のもと体づくりを行っています。

食事・運動・体調管理

アスリートが行っている日常的な習慣をひも解いた結果、以下の3つの項目が重要であることがわかってきました。

  1. 食事:体を鍛えるために、バランスの良い食事を徹底して管理する事で腸内細菌に多様性が生まれる。
  2. 運動:体温を上げ、腸周りの筋肉が鍛えられる事により、腸の働きが良くなっている。
  3. 体調管理:血液・尿・うんちの検査をし、それらの数値をもとに自分の体調を管理する事で腸の健康も保たれている。

アスリートはこれら3つの管理を徹底しており、その結果として、「腸内細菌の多様性」が高い傾向にあります。

この「腸内細菌の多様性」が高いことは、腸の健康状態を測るひとつの指標でもあり、アスリートは「腸内細菌の多様性」が高い傾向にあると報告されています。(*1)

徹底した食事と運動習慣を継続し、その習慣をもとに自分の今の体の状態がどのようになっているのかをレコーディングするために検査を行う。アスリートはこのサイクルを回すことで常にベストなコンディションでいるように心がけ、大事な場面でベストを尽くすことができるのかもしれません。

アスリートの「腸内細菌の多様性

先ほども述べたように、アスリートの腸内細菌には多様性があることがわかってきました。健康と腸内環境は密接に繋がっていることは最近のトレンドでもありますが、実は腸を整える=特定の菌が多くなればいいというわけではありません。

重要なのは、いろいろな種類の菌がバランス良く住んでいる状態を保つこと。

それぞれの菌にメリットデメリットはありますが、大切なことは、腸内にたくさんの種類の菌が存在し、それらが共存しているということなのです。

参考:腸内細菌の多様性が大切*さまざまな菌をとり入れて腸内環境を整える

腸内環境の多様性が高いことが大切な理由

菌によって働き方が異なる→いろんな菌に働いてもらう

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腸内細菌は、種類によって働きが異なり、スムーズな排便や幸せホルモンの生成など、その働き方はさまざまです。

私たちは腸内細菌の活動に頼っているため、いろんな菌を腸内に飼って、さまざまな役割を担ってもらうことが大切です。

短鎖脂肪酸の産生

食べ物が腸内で腸内細菌に分解されると「短鎖脂肪酸」という酸が生成されます。

とある研究によると、食事管理を徹底しているアスリートにはこの短鎖脂肪酸、特に酪酸菌が一般人の約2倍あるいうことが分かっています。(*1)

短鎖脂肪酸…酢酸、プロピオン酸、酪酸のこと。大腸で腸内細菌のエネルギー源となるほか、体重増加抑制や糖代謝の改善、インスリン感受性亢進などの働きをもつ。(*2)

これらの理由から、腸内環境を整える上で腸内細菌の多様性と短鎖脂肪酸の存在は健康的な体を作る上で欠かすことができないでしょう。

病気に負けない体になる

強い体を作る秘訣は、さまざまな不調に対抗できるように多くの種類の腸内細菌を持っておくことです。すでに、トップアスリートのトレーニングには腸内環境を育てるためのメニューが組み込まれています。

さらに、病気にかかりやすい人・すでに病気の人の腸内細菌は多様性が低い傾向にあることが、最近の研究結果でわかってきています。(*3)

強い体を作り、仕事や勉強で日々のパフォーマンスを高めるためにも、腸内環境の多様性を意識すると良いでしょう。

アスリートの腸内細菌を目指そう

アスリートだけでなく、毎日の暮らし(生活・仕事など)を頑張るためにも、日々のパフォーマンスを上げる事が大切です。そのためには腸内環境を整える必要がありますが、腸内細菌も活動するためにご飯を食べる必要があります。

菌の種類によって好きな食べ物はさまざまなので、それぞれの菌が育つように私たち人間もいろんな種類の食事(腸内細菌のエサ)を食べてあげることが大切です。

参考:腸内細菌の多様性は日々の食事から!腸活にピッタリな最強食材を解説します

また、食事だけでなく運動と日々の健康管理が大切です。アスリートまで徹底した管理は難しいですが、軽いウォーキングを取り入れる、毎日うんちを見てお腹の調子をチェックするなど、少し意識をしてみるだけでも大きな変化に繋がります。

食事と運動を組み合わせて、自分だけのベストコンディションを目指しませんか?

この20年近くで腸内細菌の研究は急速に進んできましたが、ほとんどの研究は病気の人と健常者の腸内細菌を比べることで大きな発見に繋がってきました。AuB株式会社では、逆に身体能力の高いアスリートの腸内細菌を研究することで、一般の人がより健康になるための方法を見つけようとしています。

アスリートの食事、運動、健康管理の方法を参考にして、腸からベストコンディションを目指しましょう。

引用

*1:森田英利(2020)運動と腸内細菌叢、腸内細菌学雑誌、34:12-18

*2:福田真嗣(2019)もっとよくわかる! 腸内細菌叢〜健康と疾患を司る“もう1つの臓器”、羊土社

*3:田妻進(2021)生活習慣病と腸内細菌叢、生物工学会誌、99(11):573-576