監修者
冨士川凛太郎 | AuB株式会社 取締役兼研究統括責任者 

1980年生まれ、熊本県出身。2008年、豊橋技術科学大学大学院工学研究科博士後期課程修了。IT企業や経営コンサルティング会社にて、企業の研究資源の事業化に携わる。2016年からAuBの立ち上げに参画。これまで40競技950人以上のアスリートの腸内細菌を検査し、その腸内細菌データを元に人々のベストコンディションを実現させるための研究に取り組む。体力医学会、臨床スポーツ医学会、農芸化学会、分子生物学会、腸内細菌学会など数々の学会で研究成果を発表。

昨今の健康ブームにより、腸活(腸内環境を整えること)は体調管理法のひとつとして取り入れられるようになりました。テレビのニュースや雑誌・メディアでも、腸活メソッドや腸に良い商品、レストランなどが多く紹介されています。

そんな腸活で有名な腸に良い菌といえば、乳酸菌やビフィズス菌を思い浮かべる人が多いはず。

ですが、最近では腸に良い菌として「酪酸」を生産する酪酸菌に注目が集まっています。

酪酸菌の何が健康(腸)に良いの?

酪酸菌って何を食べたら増やせるの?

という方のために、今回は酪酸・酪酸菌と腸活の関係、腸内で酪酸菌を増やす方法についてお話します。

酪酸・酪酸菌とは?

酪酸は短鎖脂肪酸のひとつで、腸内の酪酸菌が食物繊維などを分解して作る物質です。酪酸の主な働きとして、免疫機能の調整をする働きがあるといわれています。(*1)また、この酪酸は大腸が水分やミネラルを吸収する働きを促進する作用があるので、大腸が正常に機能するためには酪酸が必要不可欠です。

また、酪酸を作り出せるのは酪酸菌だけで、乳酸菌やビフィズス菌には作ることができません。そのため、酪酸の効果を最大限に発揮するためには、

・腸内の酪酸菌を増やしてあげること
・酪酸菌それ自体を摂取すること

が必要です。

酪酸菌が産生する酪酸は免疫機能を調整する

酪酸菌またはそれらが産生する酪酸の代表的な健康効果は、「免疫調整機能」です。(*1)

免疫機能が落ちてしまうと、風邪をひきやすくなる、感染症にかかりやすくなる、花粉症やアレルギーなどの自己免疫疾患を引き起こすなどの原因にもなりかねません。

酪酸をはじめとする短鎖脂肪酸には、そんな免疫機能を調整する作用があります。いつも元気で生き生きと活動するために、腸内環境を整えることで腸内の特定の菌に短鎖脂肪酸(酪酸、乳酸、酢酸、プロピオン酸など)を産生させ、免疫機能を整えましょう。

参考:「腸活」で風邪に負けない体づくり!おすすめな理由と実践方法

酪酸菌を腸内で増やすためには?

身体の健康を支える酪酸ですが、酪酸を作り出せる腸内細菌は酪酸菌だけです。つまり、腸内の酪酸を増やすには、酪酸菌を摂取する、酪酸菌の働きを助けるなどが重要です。

では、酪酸菌を増やしたり酪酸菌の働きを増やすにはどうすればよいのでしょうか。

食物繊維を摂る(特に水溶性食物繊維)

ただ腸内の酪酸菌を増やすといっても、酪酸菌が腸内で良い活動ができなければ意味がありません。腸内での酪酸菌の活動をよりよくするために、酪酸菌のエサとなる食材を日々の食事に取り入れるのがおすすめです。

酪酸菌のエサは、食物繊維です。そして、食物繊維には水に溶けやすい水溶性のものと水に溶けにくい不溶性がありますが、特に腸内細菌の餌になりやすい水溶性の食物繊維をたくさん摂りましょう。

<おすすめの食材>
・海藻類(昆布、わかめ)
・果物類(バナナ、りんご、キウイ)
・キノコ類(しいたけ、えのき、しめじなど)
・穀類(オートミール、もち麦など)

そもそも日本人の多くは食物繊維が足りていないといわれています。食物繊維は成人男性で1日あたりおよそ21g以上、成人女性で1日あたり18g以上摂取するのが目安とされているので、日々の食生活でより意識して摂取するのが良いでしょう。(*2)

食事から酪酸菌を摂るのは難しい?

酪酸菌は空気を嫌うため、食品には生息しにくい性質があります。そのため、酪酸菌を食品で摂取しようとすると、ぬか漬けや臭豆腐といったものしかなく、非常に限られてくるので、継続的な摂取はなかなか難しいもの。

酪酸菌を直接摂取するなら、サプリメント等を利用するのが良いでしょう。

参考:いつもの腸活で意識したい”酪酸菌”を増やすには?おすすめレシピも紹介

まとめ:いつもの腸活に酪酸菌も意識して取り入れてみよう!

これまで、腸活で活躍する菌のイメージは「乳酸菌」や「ビフィズス菌」が主流でしたが、実は「酪酸菌」も重要な菌の一種であることをお話しました。

酪酸菌が産生する酪酸の主な健康効果は免疫調整機能であり、風邪をひきにくい強い体を作るためにも意識的に腸活に取り入れたいところですね。

そんな酪酸菌を食事から摂取するとなると難しいですが、サプリメントで菌そのものを摂取する、酪酸菌を腸内で増やすための食事(食物繊維の多い食材)を工夫することで取り入れられます。ぜひ、日々の食事を意識して酪酸菌を増やし、腸内活動を活発にして健康的な日々を過ごしましょう!

酪酸菌については、最近特に免疫に関わる研究が増えてきました。特に注目されているのは新型コロナウイルス感染症と酪酸菌の関係です。これまで感染者の腸内細菌を調べた論文が少なくとも4本発表されていますが、全ての共通しているのは「酪酸菌が多い人ほど重篤化しにくい」という結果です。感染症だけでなく、何かのきっかけで体調を崩すリスクを減らすためにも、酪酸菌を増やすことを意識した食生活は有益なのではと思います。

引用

*1:Vital, M., Karch, A. and Pieper, D.H. (2017) Colonic Butyrate-Producing Communities in Humans: an Overview Using Omics Data. mSystems., 2(6):e00130-17.

*2:厚生労働省「日本人の食事摂取基準」策定検討会(2020)日本人の食事摂取基準(2020年版) 第一出版