監修者
広瀬歩美 | 管理栄養士、博士(医学)

千葉県出身。お茶の水女子大学卒業後管理栄養士国家試験合格。生活習慣病専門クリニック勤務を経て、2013年に筑波大学大学院にて博士(医学)を取得。私立大学にて「子どもの食と栄養」等の講義を担当する中で、自身も独学で保育士資格を取得した。論文や学会で成果発表する傍ら、市民講座や小中学校での講演会も多数行った。現在はフリーランスとして、商品開発や食堂メニューの監修、オンライン栄養指導などを行っている。

「子どもが虫歯にならないように頑張ろう!」

歯が生え始めた赤ちゃんの頃にはそう決意しても、幼児になった本人が歯磨きを嫌がったり、甘いお菓子を食べたがったりと、虫歯予防の現実はなかなか一筋縄ではいきません。

しかし大人に多い歯周病は虫歯だけでなく、糖尿病や心血管疾患など多くの病気と関連すると言われるため(*1)、お口の清潔はやはり大切。さらに最近では、お口の中の細菌と腸内細菌は関連していることもわかりつつあります。

そこで今回は、子どもの口を健康に保つための、歯磨きで大切にしたいポイントをお伝えします。

口の中の健康と腸の関係

口の中の健康と腸の関係

赤ちゃんがお母さんのお腹の中にいるときには、口の中も無菌状態です。

しかし生まれてからは、主に家族からの細菌がうつってきます。口の中にたくさんの菌が住んでしまうと、そのバランスによっては口の中が臭くなる、虫歯になるなどのトラブルが起こります。

最近の育児で「大人が食べている箸で子どもに食べさせない」と言われているのは、主に虫歯の原因となりうるミュータンス菌をうつさないように、という意味合いがあります。

丁寧に歯を磨き口の中を清潔に保つことは、腸内フローラのバランスにも関係します。

これは、口と腸はつながっているので、口腔細菌を飲み込むことで一部の菌がおなか(腸)まで届くためです。

動物実験によると、口腔細菌が腸内フローラのバランスを乱し、全身の病気につながるような体内の変化を招いたことがわかっています。(*1)。

つまり、日頃から口の中を清潔にしておくことは、虫歯や口臭が予防されるだけでなく、全身の健康にも良い影響があるということですね。

子どもの口を清潔に保つポイント

「腸に悪い菌を送らないように」という点で、朝起きてすぐの歯磨きがおすすめです。

また、歯磨きには虫歯菌のエサとなる食べ残しや、プラーク(菌の塊)を除去する役割もあります。

とはいえ現実的には、朝から2回も子どもの歯を磨くのは難しいので、まずは起きてすぐにうがいをしてみてはいかがでしょうか。

フッ素を活用して虫歯予防

フッ素を活用して虫歯予防

虫歯の多くは歯ブラシが届きにくい歯と歯の間から起きやすく、歯磨きだけの虫歯予防には限界があります。

そこで、おすすめなのがフッ素です。

自治体の歯科健康診査や歯科への定期通院で、フッ素塗布が無料または安く受けられます。ぜひ活用しましょう。

自宅では、フッ素が入った歯磨き粉での歯磨きやうがいが虫歯予防に有効です。

実際にフッ素によるうがいを取り入れている保育施設や学校では、高い虫歯予防効果が報告されています(*2)。さらに研究によると、小学校就学前よりも幼児のうちから始める方がより効果的で、40〜80%虫歯が予防できたそう。

「フッ素は体に悪くないの?」という心配もありますが、世界では、フッ素を取り入れたお口の中のケアは取り入れられています(*3)。フッ素の過剰摂取を心配しすぎる必要はなく、吐き出しのできない幼児には、ジェル状・泡状・液体(スプレー式)の使用もおすすめです。

フッ素入り歯磨きの予防効果を十分に発揮させるには、「磨いたあと1〜2時間は飲食を控える(おすすめは就寝前)」「うがいは少しの水で1回だけ」を意識しましょう(*4)。

歯磨きしたくなる工夫

フッ素が大事だということはわかったけど、子どもに歯を磨いてもらうことが大変!ということもありますよね。

そこで、子どもが進んで歯磨きをしたくなる工夫を3つご紹介します。

歯垢が着色できる歯磨き粉

歯垢が着色できる歯磨き粉

歯垢が赤く「見える化」されるので、汚れていても汚れていなくても、大喜びで磨けます。

磨き残しがわかるので、仕上げ磨きもしやすいですよ。

歯磨きアプリ

スマホやタブレットの歯磨きアプリの活用もおすすめです。

カメラで歯磨きをする動作を読み込んで、敵を倒したりアイテムをゲットできたりするアプリでは、ゲーム感覚で楽しく歯磨きができますよ。

ただし、熱中しすぎて歯茎から出血する子もいますので、やりすぎにはご用心ください。

親子で磨き合う

子どもが歯磨きを嫌がる場合、まず先に親が子どもに歯を磨いてもらうのも有効です。

先に自分が親の歯を磨いた満足感で、歯磨きさせてくれる確率が上がりますし、親子のコミュニケーションにもなりますね。

おまけ*虫歯を予防するおやつの工夫

「そもそも歯を汚さない」という意味で、おやつの食べ方も大切です。

時間と量を決める

時間と量を決める

おやつの時間は1日1〜2回と決め、ダラダラと飲み食いするのはやめましょう。何も食べていない時間に、歯の修復が行われます。

お菓子は袋から直接食べず、食べる分だけを1人ずつのお皿に盛ることでダラダラ食べは防ぎやすいですよ。

種類を工夫する

種類を工夫する

歯に残りやすいチョコレートや飴類、砂糖たっぷりのケーキ類などは虫歯になりやすく、注意が必要です。

子どもにとってのおやつは、エネルギーや栄養素を補給する「補食」の意味もありますので、おにぎりや小魚、果物などと組み合わせてとりましょう。腸活も意識するのであれば、干し芋などもおすすめですよ。

お口の中を綺麗にして、元気な身体を作ろう

お口の中を綺麗にして、元気な身体を作ろう

お口の中の健康は、全身の健康につながるということが最近はわかってきています。

朝起きてから口をゆすぐだけでもいいので、ぜひ明日からいつもの習慣に取り入れてみましょう。お口の中の悪い菌を体の中に入れないという意識は、老若男女関係なく大切です。

家族で取り組むヘルシーな習慣で、子どもの健康を支えて過ごしましょう!

引用

*1:山下和久.歯周病と全身疾患の関連 口腔細菌による腸内細菌叢への影響.(2016) 化学と生物.54(9)633-639.

*2:フッ化物洗口|e-ヘルスネット(厚生労働省)

*3:水道水フロリデーション|e-ヘルスネット(厚生労働省)

*4:フッ化物配合研磨剤|e-ヘルスネット(厚生労働省)