「母乳で育てないと、赤ちゃんの健康に影響するって本当?」

「母乳のために気をつけたほうがいい食事内容を知りたい」

このような疑問やお悩みをかかえていませんか?

実は、赤ちゃんの頃の腸内環境は、乳児期の健康だけでなく、成人後の健康にも関係するということがわかってきています。

そこで今回は、赤ちゃんの頃の腸内環境に大きな影響を与える「母乳」についてついてお話いたします。

母乳と赤ちゃんの腸内環境

母乳に含まれる以下の3つの成分は、赤ちゃんの腸内細菌叢(腸内フローラ)に影響することがわかっています。

 ①ヒトミルクオリゴ糖(HMO):特定の腸内細菌を増やす

 ②IgA:母乳に含まれる抗体(菌やウイルスなどの異物を排除する免疫物質)

 ③リゾチーム :抗菌・抗炎症作用をもつ(*1)

さらに、複数のビフィズス菌は、母乳と赤ちゃんとの間で共有されていることも報告されています。(*1) 

授乳中のお母さんの腸内環境が母乳を変える

実は、授乳中のお母さんの腸内環境も、母乳の質に影響することをご存知でしょうか。

赤ちゃんは免疫系の発達が未熟なため、母乳には抗体(菌やウイルスなどの異物を排除する物質)が大量に含まれています。その抗体を作る免疫細胞が、お母さんの腸由来であることが明らかになっているのです。

つまり、腸を整えることは母乳の質を上げることにつながるといえます。

粉ミルク(人工乳)人工乳でも赤ちゃんの腸内環境は育つ?

母乳が赤ちゃんの腸内環境に影響するということは、粉ミルクのような人工乳では赤ちゃんの腸内環境は育たないのでしょうか。

実際に、人工乳で育った赤ちゃんは、母乳で育った赤ちゃんと比べて腸内のビフィズス菌の割合が少ないなど、腸内細菌の種類に差があることが報告されています。(*3)

一方で、近年は粉ミルクも改良されているため、粉ミルクと母乳で育った赤ちゃんの間にビフィズス菌の割合に差がない、あるいは粉ミルクで育った赤ちゃんの方が腸内細菌のビフィズス菌の割合が多いという報告もあります。(*3)

参考:赤ちゃんの腸内環境の特徴とフローラ形成を決める3つの要因

出産前から赤ちゃんの腸内環境のために準備しよう

母乳が赤ちゃんの腸内環境や健康にかかわるということは、出産前の妊娠時からお母さんも腸内環境を整えておく必要があります。ここでは、出産前から準備できる、赤ちゃんのための工夫を紹介します。

出産前から意識したい食事

母乳の質を上げるためには、プロバイオティクス(菌をとる食品)やプレバイオティクス(菌を育てる食品)といった、腸内環境を整える食事を摂ることが大切です。

プロバイオティクスは、乳酸菌といった腸内環境を良くする菌を含む食事であり、ヨーグルトや乳酸菌飲料、納豆、キムチなどの発酵食品が挙げられます。(*4)

整腸剤なども上手く活用しながら、ヨーグルトや乳酸菌飲料などからの糖質の摂り過ぎには注意しましょう。

一方、プレバイオティクスとは腸内細菌のエサとなる食品のことで、水溶性食物繊維やオリゴ糖(野菜類・果物類・豆類など)が挙げられます。(*4)

市販のオリゴ糖製品は、たくさん食べると下痢やおなかの張りを引き起こすことがあるため、摂取量には気をつけましょう。

粉ミルク(人工乳)はこんなものを選んでみよう

粉ミルクを選ぶ際は成分表示を見て、以下のような複数種類のプレバイオティクス(難消化性オリゴ糖)が含まれているか確認しましょう。(*3)

【粉ミルクに利用されている代表的な難消化性オリゴ糖】

 ・ガラクトオリゴ糖

 ・フラクトオリゴ糖/イヌリン

 ・ラフィノース

 ・ポリデキストロース

 ・ペクチン由来酸性オリゴ糖

また、母乳中には「ヒトミルクオリゴ糖」という固形成分が、乳糖や脂質に次いで3番目に多く含まれています。ヒトミルクオリゴ糖は人工的に生成することが難しく、ほとんどの粉ミルクには入っていない、母乳特有の成分です。(*3)

そこで、粉ミルクを使用する場合は、赤ちゃん用のビフィズス菌オイルを加えるのもひとつの方法ですよ。

まとめ | 母乳の質を高めて赤ちゃんの腸内細菌を育てよう

乳児期の腸内環境は、母乳や人工乳の影響を受けて変化するといわれています。母乳の質を高めるためには、お母さん自身の腸内環境を整えておくことも大切です。

ただ、母乳でないと赤ちゃんが育たないわけではありません。粉ミルクにも赤ちゃんに必要な栄養素が多く含まれているため、うまく利用しながら赤ちゃんの腸内環境を整えることを意識しましょう。

自分の健康のためにはもちろん、生まれてくる赤ちゃんのためにも腸内環境を整えることに取り組んでみてはいかがでしょうか?

引用

*1: 牧野博、松木隆広(2018年)乳児腸内フローラの形成機構 生涯の健康状態を左右する重要なイベント、化学と生物、日本農芸化学会、56(4) 

*2:久保 のぞみ、最上晴太、万代昌紀、近藤英治(2021)胎生期から出生後における児の細菌叢の形成、日本周産期・新生児医学会雑誌、57(2)、243-250

*3:堀米綾子、江原達弥、小田巻俊孝、清水隆司 (2019)母乳中の因子および人工乳の改良がもたらす乳児腸内細菌叢への影響、腸内細菌学雑誌、33 : 1-14

*4:腸内細菌と健康 | e-ヘルスネット(厚生労働省)