監修者
荻原修也 | AuB株式会社 研究部門 研究員

1997年生まれ、埼玉出身。2022年、東京農業大学院農学研究科バイオサイエンス専攻博士前期課程修了。大学で微生物の生命力に惹かれ、「分子生物学」「遺伝学」「微生物学」「動物生理学」「動物発生工学」「植物生理学」などを学んだのち、研究室では腸内嫌気性細菌の生存戦略に関して研究を行う。新卒でAuB株式会社に入社し、研究開発を担当。一般人やアスリート、赤ちゃんから大人まで老若男女すべての人の腸内細菌の研究、便から新たな菌の探索も行う。日本農芸化学会(2022)での口頭発表。

私たちの体や心にアプローチをすることから、最近注目されている「腸内環境」。テレビやメディアでも、腸をケアすることの大切さをよく見聞きするようになりました。

実は、腸内環境は年齢を重ねる中で変化していくことがわかっています。長い人生の入口となる、生まれてすぐの赤ちゃんの腸内環境はどのように決まり、変化していくか知っていますか?

今回は、赤ちゃんの腸内環境(腸内フローラ)を決める要因についてお話いたします。

赤ちゃんの腸内環境の特徴は?

赤ちゃんの腸内環境の特徴は?

腸をケアする上で大切なことは、腸内細菌の多様性。かつては腸内に存在する善玉菌・悪玉菌・日和見菌の3種類の割合が大切といわれていましたが、実は「腸内にどれだけの種類の菌がいるのか」が健康にとって大切であり、健康指標になっています。

年齢を重ねるとともに腸内フローラも変化していくことが知られていますが、赤ちゃんの腸内フローラはおよそ3歳までに、だんだんと大人のような多様性の高い腸内フローラへと変化していきます。

それまでの間に、赤ちゃんの未熟な腸を守るのが「ビフィズス菌」です。

赤ちゃんの腸内フローラはビフィズス菌が大半を占めており、腸内のpHを下げることで有害菌や病原菌の増殖・感染を抑えるだけでなく、アレルギーの予防にも重要な役割を果たしています。

参考:腸内環境は年齢とともに変化する?*食・生活習慣が鍵を握る

子どもの腸内細菌を決定するものは?

大人の腸内フローラは、普段の食事や生活習慣によって変わります。一方で、赤ちゃんの腸内フローラはどのように決定していくのでしょうか。

その要因は大きく3つが考えられます。

①出産時の分娩方法

①出産時の分娩方法

赤ちゃんの腸内環境は酸素が少なく、酸素が苦手な腸内細菌の割合が多くなります。そして、産まれて三日目から、赤ちゃんに多いといわれるビフィズス菌が増加するのですが、出産方法によって腸内フローラは異なることがわかっています。(*1)

●経膣分娩(自然分娩)…経膣分娩で生まれた赤ちゃんは、お母さんの産道や肛門からお母さんの腸内細菌を受け継ぐ機会を得ます。そのため、ビフィズス菌優勢の腸内フローラになりやすいのです。

●帝王切開…産道を通らずに生まれてくるため、お母さんの腸内フローラを受け継ぐ機会が少なく、どちらかといえばお母さんの皮膚にいる菌のバランスや病院内によく存在する細菌叢と似た腸内フローラになるといわれます。

一方、帝王切開で生まれた赤ちゃんは、出生直後にビフィズス菌は少ないものの、1カ月もすると経膣分娩と変わらない数のビフィズス菌がおなかにいることが分かっています。

②授乳方法

②授乳方法

赤ちゃんの大切なご飯である、母乳。その中にも、赤ちゃんの腸内フローラの形成に関わる成分が含まれます。(*1)

母乳に含まれる細菌…諸説ありますが、母乳には腸内環境をケアする細菌が含まれているといわれます。また、母乳自体に含まれる細菌叢も、多様性に富んでいるとか。

オリゴ糖…母乳に含まれるオリゴ糖である、ヒトミルクオリゴ糖(HMO)は、小腸で吸収されずに大腸まで届き、ビフィズス菌などの腸内細菌を増やすといわれます。一般的な粉ミルクには含まれておらず、母乳と粉ミルクの大きな違いの一つです。

また、HMOは感染症予防にもはたらく、赤ちゃんが最初に触れるプレバイオティクスでもあります。

免疫グロブリン…母乳に含まれる免疫グロブリン、その代表はIgAと呼ばれます。乳腺にある細胞で作られたあと、母乳を介して赤ちゃんの腸内に届いたIgAは、病原性細菌の増殖を防ぎます。

●リゾチーム…母乳に含まれる、天然の抗菌物質。赤ちゃんの腸内フローラの形成や健康にとって大切なものです。(*1)

③生活環境・習慣など

③生活環境・習慣など

赤ちゃんの腸内フローラは、生活環境・習慣なども関係します。

例えば、兄弟・姉妹の有無や、ペットを飼っているかどうか、近くに自然環境があるかなど。最近では、年上の兄・姉がいる赤ちゃんの腸内にはビフィズス菌が多くいるという研究結果もあります。(*2)

まとめ | 大切な赤ちゃんの腸内細菌叢をケアしよう!

まとめ | 大切な赤ちゃんの腸内細菌叢をケアしよう!

産まれてすぐの赤ちゃんの腸内フローラは、ビフィズス菌が優勢という特徴を持ちます。

その後、さまざまな影響を受けながら大人になるに連れて腸内環境は変化していきます。

出産方法、授乳方法、生活環境・習慣が腸内フローラや腸内環境に関わりますが、大切なことは赤ちゃんの腸内に存在するビフィズス菌を守ること。

お母さんの体調管理はもちろん、家族で腸活に取り組むことで、赤ちゃんの健やかな成長・腸ケアに繋がります。ぜひ楽しみながら、腸活を始めてみませんか?

引用

*1:久保 のぞみ、最上晴太、万代昌紀、近藤英治(2021)胎生期から出生後における児の細菌叢の形成、日本周産期・新生児医学会雑誌、57(2)、243-250

*2:Tamburini, S., Shen, N. and Wu, H.C. et al. (2016) The microbiome in early life: implications for health outcomes. Nat. Med., 22(7):713-22.