「味噌汁は日本人のソウルフード」。そんな当たり前がいま、地球規模でアップデートされています。海外のシェフや健康志向の消費者から“クレイジーに旨い発酵ペースト”と絶賛される味噌 ── その魅力と市場の伸びしろを、最新研究とトレンドからひも解きます。
味噌とは? ── 発酵文化が生む“旨味エンジン”

味噌は蒸した大豆に麹菌と塩を加え、数か月〜数年熟成させてつくる日本固有の発酵調味料です。発酵中にタンパク質がアミノ酸へ分解され、濃厚な旨味とまろやかなコクが形成されます。さらに乳酸菌や酵母が共生し、腸内フローラを整えるプロバイオティクス食品としても注目。塩分を含むものの旨味の相乗効果により少量で味が決まり、減塩調理の切り札にもなり得ます。
海外での需要拡大 ── 健康志向とプラントベースの追い風

「腸活」をキーワードに発酵食品ブームが拡大する中、味噌は急速に市民権を獲得しました。英国の高級スーパーでは要冷蔵の生味噌が常備され、米国のファストカジュアルでは味噌マリネのグリルサーモンやヴィーガン向け味噌ドレッシングボウルが人気メニューに。植物性素材だけでは出しにくい”うまみという第5の味”を補えることから「プラントベース料理の隠し味」として欧米シェフの必需品になっています(*1)。
輸出統計でも1990年代約2,800 tだった味噌の出荷量は2017年に1万6,000t超へ伸長し、約6倍の成長を達成。ハラール対応やグルテンフリー味噌など、多文化ニーズに合わせた商品開発が市場拡大を後押ししています(*2)。
科学が示す味噌パワー ── 腸活・抗酸化・血圧ケア

味噌は大豆や穀物を原料とし、麹菌や酵母、乳酸菌などの様々な有用微生物の働きによって作られます。そこには発酵由来の菌やオリゴ糖などの成分が含まれており、プロバイオティクス&プレバイオティクスの二刀流です。それらは腸内環境を良くするだけでなく、抗酸化や抗炎症、さらには高肥満効果も報告されています(*3)。
興味深いのは塩分を含む味噌汁が、同量の食塩水と比べて血圧上昇を抑えたという実験結果です(*4)。味噌中のペプチドや大豆イソフラボンが交感神経の過剰な働きを抑える可能性が示唆され、”しょっぱいのに血圧にやさしい”という逆転の発想が海外研究者の興味をかき立てています。
市場トレンドと今後の可能性

植物性たんぱく質市場との融合
世界の植物性たんぱく質市場は“2024年143億ドル→2029年205億ドル(年平均成長率7.5%)”と予測されており(*5)、必須アミノ酸バランスに優れた味噌は「完全たんぱく源」として関心を集めています。これを受けて、プラントベース企業では味噌を活用したスナックや即席スープの開発が活発化しています。
まとめ
味噌は、日本の発酵技術が生んだ“旨味の結晶”であり、腸活・抗酸化・血圧ケアを兼ね備えたオールラウンダーです。和食ブームと健康志向、プラントベース潮流、さらにはサステナビリティと観光需要を追い風に、世界市場での存在感は今後も加速するはず。まずは毎日の味噌汁一杯から——日本発スーパーフードの底力を体感してみてはいかがでしょうか。
引用文献
*1:日本貿易振興機構 (JETRO). (2019, 5 月 27 日). 英国で人気高まる発酵食品. https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2019/e5518977ab8b7a1f.html
*2:日本貿易振興機構 (JETRO). (2018, 11 月 30 日). 日本産食材ピックアップ:みそ/しょうゆ. https://www.jetro.go.jp/agriportal/pickup/misoshoyu.html
*3:Saeed F. ほか (2022). Miso: A traditional nutritious & health‐endorsing fermented product. Food Science & Nutrition, 10(12), 4103-4111. https://doi.org/10.1002/fsn3.3029
*4:Ito K. (2020). Review of the health benefits of habitual consumption of miso soup: focus on the effects on sympathetic nerve activity, blood pressure, and heart rate. Environmental Health and Preventive Medicine, 25(1), 45. https://doi.org/10.1186/s12199-020-00883-4
*5:Markets and Markets. (2024). Plant-based Protein Market Size & Forecast. https://www.marketsandmarkets.com/Market-Reports/plant-based-protein-market-14715651.html