認知症をご存知の方も多いと思いますが、腸内環境と認知症の関係性についてはまだまだ世間一般的な認知とはなっていません。

しかし、アイルランドのユニバーシティー・カレッジ・コーク(UCC)で行われた研究によれば、健康なマウスにアルツハイマー病を患った人の腸内細菌を移植すると、アルツハイマー病にみられる記憶障害が発生したことが分かりました。

今回は、AuB研究統括の冨士川に、一見関係性の無さそうな腸内環境と認知症について伺います。

認知症においてアルツハイマー病の占める割合は70%

dementia

安部さんはアルツハイマー病って知っていますか?

もちろん知っています。僕の祖母も認知症を患っていたので。

そうだったんですね。では、認知症とアルツハイマー病の違いはわかりますか?

アルツハイマー病は、認知症の原因疾患の1つですよね?

さすがです。認知症は病気だと思われがちですが、厳密には病気ではなくて、病気によって引き起こされる症状のことです。その原因になりうる病気の1つがアルツハイマー病になります。

僕も最初に知った時はびっくりしました。認知機能の低下によって日常生活に支障をきたす状態自体を認知症と言うんですよね。ちなみにアルツハイマー病は何が原因で起こる病気なんですか?

アルツハイマー病は、脳にアミロイドβというタンパク質の蓄積が原因で認知機能の低下を引き起こす病気です。そして、認知症においてアルツハイマー病の占める割合は70%らしいのです。

参照:https://www.alz.org/asian/about/what_is_alzheimers.asp?nL=JA&dL=JA

そんなに?では認知症のほとんどがアルツハイマー病からくるものだと言っても過言じゃないんですね。

他人事ではない。将来的には3人に1人がアルツハイマー病に!?

Alzheimer's disease

そうなんです。少子高齢化に伴いアルツハイマー病を患う人々が急速に増えているとされており、将来的には高齢者の3人に1人がアルツハイマー病になると言う研究結果も発表されています。

※参照:https://www.jili.or.jp/lifeplan/lifesecurity/1105.html

想像以上でした。僕自身もこれから高齢に向かっていくわけですから、他人事ではないですね。

そしてここからが本題ですが、アイルランドのユニバーシティー・カレッジ・コークの研究者たちが、アルツハイマー病が腸内細菌を介して「うつる」可能性があるのではないかという調査をしたんです。

え?なぜ腸なんですか…?

近年、先述した背景からアルツハイマー病の原因について脳以外がかかわっている可能性があるのではないかと言う意見が増えてきており、調べる研究者が増えていたんです。

確かに他の病気でも、実が原因が違うところにあった、みたいなケースが最近増えてきていますよね。

この調査はマウスによって行われ、16匹の健康な若いマウスの糞便移植によって腸内細菌の移植が行われました。

アルツハイマー病を患っている人間の腸内細菌を健康なマウスに移植したと言うことですか?

その通りです。結論から言うと、移植を受けた健康なマウスたちに記憶障害が発生し、新しいことを覚えられなくなっていたようです。

※参照:https://www.kcl.ac.uk/news/links-between-alzheimers-and-gut-microbiota

腸内細菌を整えた方がいいことが、ある意味明確になりましたが、直接的にこのようなことが証明されるとなんともショッキングですね。

記憶障害のレベルを調べたところ、アルツハイマー病がより重症だった患者の腸内細菌ほど、移植されたマウスにより深刻な症状を起こしていることも示されているんです。

アルツハイマー病の重症度と腸内細菌が関連している明確な事例ですね。でも、何故なのでしょうか?

普段から腸内細菌を整えておくことがアルツハイマー病の予防につながる

old couple walking

人間やマウスの腸には、主に食物繊維を栄養源として酪酸を生成してくれるいくつかの善玉菌が存在していています。

酪酸って確か、腸内壁を掃除してくれたり、治癒を促す作用があるんでしたっけ?

そうなんです。今回の調査でアルツハイマー病患者の腸を調べると、酪酸を作ってくれる善玉菌の数が減少していることが判明したみたいなんですね。それ以外にも、認知症患者の腸内に多く存在するデスルフォビブリオなどの悪玉菌の濃度が高くなっていたり。

酪酸が少ないとどうなるんですか?

酪酸が少ないと腸壁が損傷し、悪玉菌の生成する毒素が血管に侵入することが知られています。

と言うことは、マウスの腸内細菌から分泌される毒素が血管に入り込み、脳に悪影響を及ぼしていると言うことですか?

実は、今回調査ではそのことについても実証しています。

さすが。

アルツハイマー病のマウスと健康なマウスの血清を採取し、マウスの脳で記憶を司る海馬を取り出して注いでみたところ、アルツハイマー病のマウスの血清に浸されると、健康なマウス由来の海馬でも神経細胞の新生が大きく減少することが示されたようです。

海馬って理科の授業以来久しぶりに聞きました。

海馬は記憶と密接に関わっていることをご存知の方は多いと思うのですが、神経細胞の生産は記憶にとって重要な役割を果たしており、神経細胞の新生が少なくなってしまうと記憶障害を起こしてしましまうわけです。

確か今はまだ、アルツハイマー病を改善することが非常に難易度が高いと言われていると思うのですが、普段から腸内細菌を整えておくことがアルツハイマー病の予防法になると言うことですね。