脳のストレスがお腹に影響する「脳→腸」の代表例として、過敏性腸症候群が挙げられることはご存知の方も多いかもしれません。いわゆる、ストレスや心の不調が腸の神経を刺激することで慢性的な腹痛や下痢、便秘などをひき起こしてしまう、日本人にもよく起こる疾患です。
しかし、近年「腸→脳」のパターンが注目を浴びているのはご存知でしょうか?今回は、AuB株式会社研究統括責任者の冨士川が、腸の乱れが引き起こす「うつ病」と「不眠」の関係性について紹介します。
うつ病患者は善玉菌が少ないことが明らかに…
腸内環境が脳に影響するって、腸活を知らない人からすると信じられないと思うのですが、実際どのようなエビデンスがあるのでしょうか?
2016年に、うつ病患者の腸内は善玉菌の数が少ないことが、国立精神・神経医療研究センター神経研究所と株式会社ヤクルトの共同研究において世界で初めて明らかになったんです。
世界で初めて…?
研究の詳細に関しては、うつ病の患者43人と健常者57人の便から腸内細菌を採取し、善玉菌として知られるビフィズス菌と乳酸桿菌の菌数を比較。結果、うつ病患者群は健常者群と比べてビフィズス菌が少なく、ビフィズス菌・乳酸桿菌ともに一定数以下の人が多かったようです。
でも、これが腸内環境が脳に影響すると言い切れるのでしょうか?
疑っているわけじゃないですが、腸→脳ではなく、脳→腸の可能性もあるのではと思ってしまいました。
確かにそうですね。ただ、動物実験でも同じような結果が出ているんです。
動物実験でも?
はい。
無菌状態にしたマウスの腸内に、うつ病の人の腸内細菌をそっくり移植したところ、マウスもうつ状態になったんです。
確かに。それは腸→脳ですね。
また、細菌感染症の治療薬として使われる抗生物質は、病原体を殺すだけでなく、腸内の善玉菌も殺してしまうと言われていて、1993~2013年に15〜65歳のうつ病患者20万人超を対象に行われたイギリスの調査では、1年以上前に抗生物質による治療を1回受けた人は、うつ病のリスクが23~25%高くなっていたという結果になりました。
しかも2~4回では40%増、5回以上では56%増と、治療回数とともにうつ病リスクは高まったようです…。
参照:Antibiotic exposure and the risk for depression, anxiety, or psychosis: a nested case-control study
うつだけじゃない?腸内環境の乱れは睡眠にも影響を及ぼす
となると、日本人特有とかでもないんですね。
そうなんです。
まだまだ研究結果や論文が多いわけではないのですが、それなりに確度の高い結果だと捉えています。
ちなみに、関係あるのはうつ病だけなのでしょうか?
睡眠障害も同様という報告もあります。
睡眠で悩んでいる人、結構多い印象なので、気になります。
2019年に、腸内細菌が多様的な人は、睡眠の質と睡眠時間が向上し、途中覚醒が減少するという研究が発表されています。私もそれを聞いた時は驚いたとともに、腸ケアのポテンシャルを改めて痛感した記憶があります。
参照:Gut microbiome diversity is associated with sleep physiology in humans
結構すごい発見ですよね。
具体的には腸内細菌の種類が多いほど、「インターロイキン6」という分泌物の濃度が高い。
インターロイキン6?
インターロイキン6というのは、免疫反応を活性化させる作用のあるサイトカイン(生理活性たんぱく質)の一種です。睡眠障害の人はインターロイキン6の血中濃度が低いことが、以前から指摘されていたんですよ。
重要性は理解できたのですが、結局腸内環境の影響が、どのように脳に伝わるのかはぶっちゃけあまりまだ腑に落ちていません…。
食道から直腸までの消化管である腸管神経は、情報伝達物質や免疫系など複数の経路を介して、脳と双方向ネットワークを形成し、密接に影響しあっているんです。
情報伝達物質?
はい。
例えば、脳内で不足するとうつ病を発症するとされているセロトニンや、やる気ホルモン・幸せホルモンとも称されるドーパミン。免疫システムに働きかけて炎症を抑える酪酸などの短鎖脂肪酸は、腸から放出される情報伝達物質です。
セロトニンやドーパミンは有名ですよね。
つまり腸は、単なる食べ物の消化器官にとどまらず、脳が電気信号を発するのと同じように情報伝達物質を発する重要な臓器でもあるんです。
これが第二の脳と言われる所以ということですね。