・2023年11月7日(火)開催
・タイトル:「言葉で人々の心を揺れ動かす男の知られざるコンディショニング術」 日本が誇る名実況 下田 恒幸氏に聞く、やりたいことをやり続けるために必要な3つのこと
・登壇:下田 恒幸氏(フリーアナウンサー/スポーツ実況者)
・モデレータ:鈴木啓太(AuB株式会社 代表取締役)
皆さんこんばんは鈴木啓太です。
本日は第9回goodcho live now!ということで、日本が誇る名実況の下田さんを招いて、お話を伺っていきたいと思います。下田さん、よろしくお願いします!
よろしくお願いします!
今回は「言葉で人々の心を揺れ動かす男の知られざるコンディショニング術」 という壮大なテーマでお送りします!
そんな大したものじゃないですよ(笑)
他のアナウンサーの方とやっていることは基本的には全く一緒ですからね。
いやいや下田さん!
サッカーの実況と言ったら、下田さんは真っ先に名前が出てきます。言葉の選び方や伝わりやすさ。この辺りは下田さんは本当にすごいなと。そんな人のコンディショニング術、知りたいじゃないですか?
ありがとうございます。
褒め殺しですね(笑)
とりあえず最初だけ褒めておきます(笑)
(笑)
下田さん自身が現在日常的に取り入れているコンディショニング術
それでは早速トークテーマ1に入ります。
下田さん自身が現在日常的に取り入れているコンディショニング術をふかぼっていきたくて。変な話何もやってないという話でもいいのですが、日常的に気にされていること、もしくはルーティンに取り入れているものはありますか?
仕事柄、必然的に夜型での生活になってしまうんです。
今だとヨーロッパサッカーの中継をおかげさまで仕事いただくわけですが、日本時間だと夜中ですよね。そうなると早くても22時。遅いと夜中の1時とか、この間は深夜2時30分の試合を担当しました。
普通の人じゃ考えられないですよね。
そうすると、時間軸をそこに合わせてないと頭が回らないんですよね。
早起きは三文の徳という言葉があるように、人間としては本来早起きした方がいいわけですが、僕がそれをやっちゃうと頭が回らずにパフォーマンスが発揮できません。だから、夜中に頭が回るような生活リズムにしています。朝の9~10時。遅いと昼まであえて寝ています。
自分の仕事に合わせた時間軸の設定、パフォーマンスが最大限発揮できる時間設定という意味では、それ自体がコンディショニングですよね。
まさしくです。
それでいうとサッカー選手も試合の時間に合わせて練習時間を1週間単位で組んだりするのも一緒ですね。
例えば僕の話をすると、ギド・ブッフバルト監督だった頃、大体夏場はナイターの試合(19時キックオフ)が多いのですが、そうなると18時30分からウォーミングアップが始まる。
そうですね。
僕もナイターの実況を担当しているのでイメージつきます。
なので、普段の練習も18時30分からの練習でした。
プロ選手は朝に練習しているイメージでしたけど、試合に合わせるとそういう設定に変わるわけだ。
はい。18時〜18:30からトレーニングして、20:00あたりに終わる。そこから夜ご飯を食べて、寝る時間が遅くなって…翌日10時に起床みたいな。
寝るのが遅くなるというと悪いイメージを持ちますが、自分の1日のパフォーマンスのピークをどこに持ってくるかで正解が変わってきますよね。
まさに。
メインの時間から逆算して生活リズムを整えています。なので、ヨーロッパに中継に行ったことが何回かあるのですが、僕は時差ぼけになりにくいんです。普通の人たちの生活リズムからすると僕の日常は時差ボケしているみたいなものだから(笑)
(笑)
あまりメリットじゃないですけどね(笑)
でも、自分が一番パフォーマンスを出したい時間にピークを持って来れるような時間設定、時間の使い方というのは、職業関係なく全員がすべきだと思うんですよね。
例えば明日の13:00に大事な商談があるとするじゃないですか?そうしたら、そこに自分のピークを持ってくるためにどう時間を使うか。そこが自分の中で明確になっているか/なっていないかは、コンディショニングという意味ではかなり大事だと思うんですよ。
完全に同感です。
ふと気になってしまったのですが、下田さんは1日の中でもピークを2回持って来ないといけない時がありますよね?
そうですね。
Jリーグ+プレミアリーグがあるときはピークを2ヶ所作らなきゃいけませんからね。Jリーグの試合が14時にあって、その後にプレミアの試合が深夜2時にある。
すごい過酷…
その場合は、14時と2時両方にピークを創り出すために移動中に睡眠をとって回復しますね。もしくは中継をするスタジオ付近ににホテルを取って、ホテルで身体を休めています。
30分でも1時間でもちょっとだけ寝る。そこから身体を起こしてもう1回集中の波を持っていくみたいな形です。
1日2試合実況するって、やっぱり身体は相当ハードですよね?
40代半ばぐらいはあまり気にならなかったのですが、最近はぶっちゃけハードです。(笑)
昔は早朝に茂木でスーパーGTの実況をして、夕方電車で戻って21時くらいにブンデスリーガの実況をして、終わってまた移動して夜中にセリエA実況して…みたいな3本立てをやっても平気でした。若いってすごいですよね(笑)
凄すぎる(笑)
そのときは食事は何を食べてたんですか?
いやもう普通の現場弁当(笑)
特に若い時は食事は気をつけていなくて。今考えるとよくやってたなって感じのスケジュールでしたよ本当に。
下田さんは体調を崩したことはないんですか?
いや、実は体調崩したんですよね。
なのでそこから睡眠時間をちゃんと取るようにしています。そこから体調を崩しにくくはなりました。やっぱり若い時は頑張りたいし、頑張ろうと思えば頑張れちゃいますからね。
一瞬の無理がきいちゃうんですよね。
当然個人差はあるんでしょうけど、5~6時間の睡眠が日常的になってしまうと、確実に体調を崩してしまうと思うんです。
そうなんですよね。
回復する時間がなくなっちゃう。
まさに。それで入っていた予定をお断りしたり、周りに迷惑をかけてしまうことがあって。
自分だけに影響するならまだしも、相手を巻き込むのはまずいなと思ってからは、7時間まで無理でも6時間半以上寝ています。睡眠に対する優先度をあげましたね。
なるほど。
そういう意識をこの5,6年強く持ってやっているから、ここ最近は割とコンディションを崩さないでやれています。
失敗の積み重ねの中で、自分に合ったコンディショニングを体得したという感じですね。
そうですね。
コンディションが整ってなくても、無理をすればやれないことはない。
でも実際のところ、「本当にそれってパフォーマンス出ているの?」と考えると全然出ていなくて、逆にやっつけ仕事になってないかという問いを考えた方がいいですよね。
準備90点の本番のコンディション60点よりも、準備が80点でコンディション100点でやれた方が、最終的なパフォーマンスは高い。
それはあると思います。
バランスが難しいですが、結局最終的なパフォーマンスが低ければ意味がないので。
自分の好きなことをいくつになってもやり続けるために必要な3つのこと
ありがとうございます。では続いてトークテーマ2に移ります。
「自分の好きなことをいくつになってもやり続けるために必要なこと3選」。変な質問ですが、下田さんは実況が好きですか?
はい。
好きだからやれています。
好きなことをやり続けるには、一瞬の輝きじゃなくて、持続的な長期間できる状態を作ることが大切だと思うんですよね。
サッカーで言うと、1シーズン120点でめちゃくちゃ活躍するよりも、10シーズンを75点,80点くらいで続けられる方がいい。もちろん一瞬の輝きも欲しいんですけど、好きなことなのであればどれだけ長期間続けることができるかが人生の幸福に影響すると思っていて。
それは間違いないですね。
そうなった時に、もちろん職業的に必要な技術力もあると思うんですけど、もう少し汎用的にどんな職業/趣味においても必要なことってなんだろうなと。
下田さんも、もうアナウンサー生活長いですよね。それの秘訣を知りたいなと。
90年入社ですから、気づけば30年ちょっとかな。長いね(笑)
アナウンサー人生だけでも三十路超えてます。よく頑張ってるなと思います。
本当にすごいことですよ。
そもそも幼い頃から実況者になりたいっていう夢があって。どうすれば実況者として一流になれるかをずっと考えていました。
就職する前もスポーツを見てずっと喋っていましたし、親からうるさいなと言われても、野球の実況や競馬の実況を真似してみたり。そこから仕事としてアナウンサーになれた後も、練習をすごくしました。
積み上げということですかね。
そうですね。ベースを作るために、実践想定でたくさん喋る。とにかくそれをやっていました。
最近の若いアナウンサーは意外と練習しないらしいんです。でも僕は、実況は練習して上手くなるものだと思っていて。例えばバスケの取材に行って、実際に喋ってそれを録音する。後で聞き返して「全然喋れてないな」とか悔しい思いをしながら、とにかく繰り返してやる。実際それがオンエアされるか/されないかに関係なく、オンエアされる想定で喋りまくる。その蓄積は、今の僕の血肉になっています。
すごいいい話ですね。
本番だけ本番のようにやるわけではなくて、練習も全て本番と捉えてやる。その積み重ねが、長期間続けるための血肉になる。
そうですね。トークテーマは3選なのに1つなのは申し訳ないですが、長期間活躍するために必要なことと問われて思いつくのはこれかな。
今後の下田さんのチャレンジと、チャレンジに必要なコンディショニングについて
ありがとうございます。それではトークテーマ3に移ります。
今後の下田さんのチャレンジと、チャレンジに必要なコンディショニングについてなのですが、下田さんは、今後どんなチャレンジをする予定ですか?
今までもすごく恵まれた実況人生を送らせてもらってきて、結構大き目の大会とかもしゃべらせてもらえるので、分かりやすく「この大会の実況をしたい」みたいな目標はないんです。
でも、定性的ですが、「究極の実況」をしてみたいね。
究極の実況?
1回も間違えない。選手の追い逃しがない。ゴール前のシーンを逃さない。必要なタイミングで選手の名前が全部入っている。それでいてコメントが多すぎない且つ自分らしいニュアンスも込められている。その瞬間に浮かんだコメントが視聴者にもはまる…
みたいな。
そこまでできたらすごいですね。
そういう中継が90分間できたらいいなと思っています。
でも、まだ無理だね(笑)
相当高い目標を追われているんだなと改めて思いました(笑)
でも、アナウンサーをやってる以上は目指したいなと思って。
例えば周りが「下田さん、完璧でしたね」と言っても、下田さん自身が「いやいやいや、あそこでもう少しこうできたら…」みたいなものを無くしたいってことですよね。
まさに。自分自身の納得感も込みで。
その難しすぎるチャレンジを追い求めたいから、30年以上続けた今でも、ずっと新鮮なんですよね。
ちなみに、アナウンサーの方・実況の方のキャリアのピークっていつなんですか?
結論人によると思う。
どんなカラーの喋りなのかにもよります。
下田さん自身はいつ頃がピークだったんですか?
僕のピークか…。
そういう意味だとまだこの後ピークを作れると思って日々やっていますね。
もしかしたら、80歳かもしれないですよね?
確かにね(笑)
でも、残念ながらサッカー選手と一緒でまず目が衰えてきますよね。目の問題はスポーツ選手の宿命だと思いますが、実況もそうなんです。僕らも脳みそを経由しないで目と口が繋がってなんぼの仕事をしているので。
確かに。
あとは口も衰えますよね。今までは長い名前の選手を問題なく言えていたのが、澱み無く言えなくなってくる。「あれおかしいな?ちょっと最近喋りにくいな」というのが徐々に出てくる。
実際ちょっとずつですが、僕もあります。
そうなんですか?
全然感じないです。
感じさせないように頑張っています(笑)
そういったものとのせめぎ合いだから、80までは無理だと思う。だけど、世界を見ると60歳半ばまでやってる人は割といます、少ないですけど。
ロールモデルはいるんですね。
例えばイングランドのマーティン・タイラーと言う超有名なレジェンドの実況者がいるんです。
彼は昨シーズンいっぱいでスカイスポーツの実況職から離れてしまったのですが、スカイスポーツのエースとして70歳くらいまで現役としてやっていました。
では下田さんもやれますね!
(笑)
そう言う意味では下田さん自身のチャレンジに必要なこと、つまり「完璧な実況をする」ために必要なコンディショニングは、目を中心とした身体の機能を向上させる、もしくは老化させないってことですよね?
そうです。なので僕はサプリメントをたくさん飲んでいます。
例えば目は悪くしたくないのでルテインのサプリメントを飲んだり。もうかれこれ10年くらいかな?他にも記憶力も大事なので、DHAの入ってるサプリメントも。
徹底しているんですね。
それ以外にも体調管理としては腸内環境を整えるために乳酸菌を摂取したり。
今もaub ambassadorとしてaub BASEやaub GROWを飲んでいますし。
ありがとうございます!
サプリメントって本当に効いてるのかどうかって分かりづらかったりするじゃないですか?
だけど、やらないよりはやった方がいいし、結果的に今、こうやって何十年間やりたいことをやり続けられているので、意味はあると思っています。
信じてやり続けた結果ですよね。
そう言う意味では下田さんのアナウンサーとして積み上げてきたものと一緒で、積み重ねの力というか。
いろんなことを継続した結果が、今の現実を作っていますからね。
実況の練習も、サプリメントも、ちょっとした運動も、瞬間的には即効性がないかもしれないけれど、数年〜数十年経つと体感するものだと思っているので。
僕がこんなこと言うと営業みたいになってしまいますが、腸内環境は全てに関係してくるのでぜひやりつづけてください。
もちろん。
でも身体が安定してますよ。身体もマインドも。
下田さんはごきげんな大人の象徴だと思っています。
いろんなものを楽しめる余裕は出てきたかもしれません。
ちょっと最後に下田さんに視聴者の方から来ている質問にお答えしたいのですが…
もちろんです!
「下田さんのプレッシャーへの向き合う方法について知りたい」ということなのですが、僕からみて下田さんはいつも楽しんでいるように見えて、プレッシャーがかかっているように感じさせない方なのですが…
毎試合プレッシャーかかってるよ(笑)
毎試合かかってますけど、これまでの経験の蓄積で、プレッシャーをプレッシャーと感じさせないよう出来てきたんだと思います。やっぱり若いうちは、何をやってもいつもプレッシャーでした。
だけど「今回はこれができた」みたいな積み上げが年々蓄積されていくと、プレッシャーの感じ方やプレッシャーの質が変わってくる。
プレッシャーはあるけど、感じ方や質が変わってくるっていい言葉ですね。
なのでプレッシャーは常にあるんですよ。
むしろ、僕はプレッシャー自体はあった方がいいと思っています。
プレッシャーを責任感や真剣さというプラスの言葉に置き換えて、向き合ったらいいのかなと。
そうですよね。
真剣であればあるほど、大事であればあるほどプレッシャーって感じるものですよね。
その通りですね。
プレッシャー=真剣に向き合えているかどうかのバロメーターかもしれないですよね
そうですね。
長年この仕事をやってきていますけど、「今日はどうしようかな…」「この試合難しい展開になりそうだな…」みたいな思いは毎回ありますよ。直前まで頭の中で「もしこうなったらどうしようかな…」「こんな展開になったらどうしようかな…」みたいなものを考えながらやっています。
30年以上第一線でやってきた下田さんでさえ、毎週プレッシャーを感じて大変ということは、もはやプレッシャーを感じない方法なんて無いのかもしれないですね。
そう!むしろプレッシャーを感じましょうよと。
感じ方を変えたり、捉え方を変えるという考え方にシフトしましょう。
こういったお話を下田さんからしていただくのは勇気が出ます。
でも、啓太さんもそうでしょ?
散々とんでもないプレッシャーに向き合ってきていますよね?
サッカー選手の時もそうですけど、経営者になった今も毎日プレッシャーしかないです。
でも、プレッシャーを感じていること自体が「生きてる」と思うんです。逆にもうゾクゾクするみたいな。
わかる、すごく共感します。
楽しめているからプレッシャーが無いというわけではなくて、プレッシャーをどう楽しむかですよね。
サッカー選手だって、1試合1試合、なんなら1シーンごとにプレッシャーでしょ?
どれだけキャリアを積んで、例えば啓太さんが代表に呼ばれて一番自分がピークな時でさえも、それはそれでプレッシャーがたくさんあるじゃないですか。
期待というプレッシャー、失敗したら地位が崩れるというプレッシャー、いろいろありましたね。
クラブでレギュラー取り始めた時と、レギュラーとして浦和が初めて優勝したときでは状況や立ち位置は全部違うけど、でもやっぱ必ずプレッシャーありましたよね?
そうですね。
そう考えてみると、真剣な時はプレッシャーがなくなることは一切なかったです。それはこれからもきっと変わらないかなと。
だからこそ、プレッシャーというものをそもそもネガティブなものだと思わない。真剣であれば常に生じるものだと割り切って、感じ方の質を変えてプラスの力に変える。それが大事なのかなと思います。
長期間、第一線で活躍し続けている下田さんの言葉は、ご経験は本当に勉強になりました。
日本サッカーはシーズン佳境を迎えていますが、1人のサッカー好きとして、週末下田さんの実況を楽しみにしております。それでは下田さん、本日はありがとうございました!