「便秘の人はそうじゃない人に比べると認知症のリスクが約2倍」という研究結果をご存知でしょうか?
便秘は、多くの人が1回は経験したことのある症状かもしれません。厚生労働省の国民生活基礎調査(2016年)によれば、男性は約40人に1人、女性では約20人に1人が便秘の症状を自覚していると言います。そのため「たかが便秘…」「どうせすぐ治るでしょう」と軽くみられがちな印象を受けます。
参照:平成28年国民生活基礎調査の概況
しかし、多目的コホート研究(JPHC研究)によって、男女ともに排便頻度が低いほど、また便が硬いほど認知症リスクが高くなるという報告がされており、決して軽くみてはいけないのです。
今回は、AuB研究統括の冨士川に、便秘と認知症の関連性について伺います。
今回の研究報告でかねてから噂されていた、腸の機能は脳腸相関を介して認知症と関連することが明らかにされたということですよね?
そういうことになります。認知症だけにとどまらず、腸内細菌叢の変化は全身性の炎症をひきおこし、認知症を含む神経変性疾患の病態にかかわることが推測されています。
どんどん腸ケアの重要性が高まっていると言える一方、やはり世間の皆様からすると難しい用語が多く自分ごと化しにくいというか、解釈が難しいというか…
おっしゃる通りですね。もう少しわかりやすくする必要があります。そういう意味でも、この研究の結論としてでた「排便習慣(便秘)は、腸内細菌の働きを介して認知症と関連する」はわかりやすいかなと思います。
具体的には、便秘がどれくらいの影響を与えるんですか?
排便頻度が毎日1回のグループに対して、週3回未満、つまり便秘の男性では約1.8倍、女性では約1.3倍の認知症リスクがあるという結果になりました。
約2倍!?
はい、排便頻度が少ないグループほど認知症リスクが高くなりました。男性の方がその傾向は強いようです。
我々も気をつけないと…。でも、弊社に寄せられる相談でも、腸の症状は女性の訴えの方が多いと思ったのですが、認知症のリスクにおいては男性の方が上なんですね。
そうなんです。便秘については女性からのご相談が確かに多いのですが、男性の場合は隠れ便秘の人が多いんです。ただ、便秘を大したことないと思っていたり、対策しないことも良くないのかもしれませんね。
今回の研究では「排便頻度」と「便の硬さ」が認知症リスクと紐づいているということだと思うのですが、排便頻度が低いことと便が硬いことは、腸の機能でいうと何に問題があるのでしょうか?
この2つは、便の腸管通過時間の遅延と関連があります。
腸管通過時間の遅延?
はい。腸管通過時間の遅延は、腸内細菌の代謝産物である短鎖脂肪酸の減少を引き起こすことが報告されています。
腸内細菌が作る、酪酸、プロピオン酸、酢酸などの有機酸のことを指す短鎖脂肪酸ですね。
はい、腸のバリア機能を強くするための最も重要なエネルギー源であり、抗炎症作用など優れた効果を発揮する短鎖脂肪酸です。短鎖脂肪酸が減ると、酸化ストレスを引き起こし、認知症リスクを高める可能性があるというわけですね。
近年だと、在宅勤務が一般化したことで便秘がちになることも問題視されていましたが、腸のプロフェッショナル的にこの研究結果を見てどう感じていますか?
便通は腸内細菌が関係する様々な健康効果の一つ程度に思われがちですが、改めて便通が良いと様々な健康効果に好影響を及ぼすのだなと痛感しました。便通の頻度、硬さ、匂いなど、便の状態によって腸の健康状態を測ることができて、その良し悪しで認知症など様々な健康リスクを知ることができると言えるので、セルフチェックしやすいという意味でもぜひ腸や便を日頃から観察する習慣をつける人が増えて欲しいです。
なるほど。何かと軽視されがちな便秘ですが、「たかが便秘」と思わず、普段から腸を整えておくことが将来の健康に多大な影響を与えると言っても過言ではないですね。
その通りです。相談頻度は女性の方が多いですが、今回の調査結果では男性の方が便秘による認知症リスクが高いことも明らかになりましたし、性別関係なく腸を整えることは重要ということです。