「眠いのに寝付けない」「眠りが浅い」「寝ても疲れが取れない」など、さまざまな「眠れない」悩みがありますよね。
良い眠りには、睡眠時間(量)とともに、睡眠で疲れが取れたと感じられる「睡眠休養感」(質)が大切です。厚生労働省も、睡眠休養感を高めること、そのために、食生活や運動等の生活習慣や、寝室の睡眠環境等の見直すことを奨めています(*1)。
良い眠りのために整えたい生活環境のひとつが、入浴です。入浴と良い眠りには、科学的にも関連性が認められているからです。ただし、ただお風呂に入ればいいわけではなく、良い眠りに必要な入浴方法には工夫が必要。そこでこの記事では、良い眠りを促す入浴方法について、科学的根拠に基づき解説します!
「就寝1~2時間前にぬるめのお湯に浸かる」が最適解
良い眠りを促す睡眠は、上記のとおりの入浴時間・方法がおすすめです。
就寝1~2時間前の入浴
私たちの体の内部の温度(深部体温)は、およそ24時間周期で変動しており、夜寝ている間の体温は低くなっています。就寝前に手足の血流が増加し体温が外に放散されるようになり、眠りにつきやすくなるのです(*1)。
入浴は、この体温調節と入眠の関係を利用し、私たちの体を眠りにつきやすい状態にする手伝いをしてくれます。
入浴により体温は上昇するとともに、手足の血管が広がるので熱を放散しやすい状態になります。すると、入浴後の体温低下により、自然な眠気が促されます。
高齢者を対象に入浴と入眠時間を検討した研究では、就寝1〜2時間前の入浴で最も手足が温かくなり、入眠時間も短縮されたと報告しています(*2)。
ぬるめのお湯に浸かる
入浴する際の湯温は、ぬるめ(38-40℃)がおすすめです。複数の研究において、ぬるめのお湯での入浴が、自律神経である副交感神経を刺激し、リラックス効果をもたらすことがわかっているためです(*3-*5)。ゆったりと10-20分ほど浸かれると良いでしょう。
自律神経は、私たちの意思とは無関係に行われる生命活動(血液循環や消化など)を調節しており、アクティブな場面(オンのとき)で優位になる「交感神経」と、リラックスする場面(オフのとき)に優位になる「副交感神経」があります。良い睡眠には、副交感神経が優位になっていることが望ましいです。
【エビデンス】入浴習慣は良い眠りに関係する
疲れた時など、「面倒くさいから、お風呂に入らないで寝てしまおうか」と悩んだことは、誰しも一度でもあるのではないでしょうか。
しかし実は、定期的な入浴習慣が良い睡眠と関連することが、さまざまな研究でわかっています。
たとえば、入浴の頻度が高い人ほど、自身の睡眠の質を高いと感じており、睡眠に関する課題を少なく感じていた(*6)や、自己評価による健康度が高かった(*7)などの報告があります。
また、日常的に湯船に浸からずにシャワー浴をしている大学生18名が2週間入浴をしたところ、熟睡感や身体疲労感、身体の軽快感などが改善し、作業効率も上がったという研究結果もあります(*8)。
さらに、入浴には「筋肉の緊張をほぐす」「血流が改善し、酸素や栄養素が体の隅々まで届くようになる」などの理由から、疲労回復効果をもちます。
参考:お風呂で疲れが取れるのは本当!入浴の疲労回復効果やおすすめの入浴方法を科学的に解説
体の疲れが取れることはリラックスにつながるので、入浴による疲労回復効果も、間接的に睡眠の質の向上につながっていると言って良いでしょう。
疲れている時こそ、もうひと頑張りで入浴することが、体にとって嬉しいかもしれません。
入浴時間をより有意義にするための工夫
「就寝1〜2時間前に、ぬるめのお湯に浸かる」ことをおすすめしましたが、より良い睡眠と健康のためのおすすめをご紹介します。
入浴前後に水分補給をする
お湯に浸かっていると気づきにくいですが、入浴では汗をかきます。入浴の前後にコップ一杯の水を飲み、脱水や熱中症を予防しましょう。
浴室と脱衣所の温度差に気をつける
特に冬場、寒い脱衣所と熱いお風呂という急激な温度変化により、血圧が大きく変動し血管や心臓に大きく負担がかかる「ヒートショック」という状態が起こりやすくなります。脱衣所に簡易的な暖房を置いて温めるなどし、なるべく浴室と室温の差を小さくする工夫をしましょう。
また、湯に浸かる前にシャワーやかけ湯をする、湯船からはゆっくり立ち上がるなど、血圧を急変動させないよう意識するのがおすすめです。
スマホの持ち込みはNG
スマホを湯船に持ち込み画面を見ることは、せっかくの入浴効果を台無しにしかねません。リラックスするために、湯船ではなるべくボーッとできる貴重な時間を満喫しましょう。湯船で温めたタオルでアイマスクをし、目を温めることもおすすめです。
入浴グッズを活用する
最近では、睡眠に焦点を当てた入浴剤(医薬部外品)や入浴化粧料もあります。商品により特徴はさまざまなので、アレコレ試してお気に入りを探してみるのも楽しいですよ。
環境を整えて良質な睡眠を目指そう
厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、入浴以外では、良質な睡眠のために整えたい環境として「光・音・温度」の3点に着目しています。
- 光:日中にはできるだけ日光を浴びて体内時計を調整すること。反対に、寝室にはスマホ等の電子機器を持ち込まず、できるだけ暗くして眠ること。
- 音:できるだけ静かな環境で眠ること。
- 温度:エアコンにて適切な温度管理をすること。特に冬は、就寝前の室温が寒すぎると寝つきが悪くなったり、起床時の室温が寒すぎるとヒートショックを招く恐れがあるので18°C以上の維持がおすすめ。
睡眠は毎日のことであり、健康にも直結する大切な時間です。入浴を少し工夫してみることで、より良い睡眠が得られたら、嬉しいですね。
引用文献
*1: 厚生労働省.健康づくりのための睡眠ガイド 2023.
*2: Tai Y, et al.Hot-water bathing before bedtime and shorter sleep onset latency are accompanied by a higher distal-proximal skin temperature gradient in older adults. J Clin Sleep Med. 2021 Jun 1;17(6):1257-1266.
*3: Kataoka, Y, et al. The change of hemodynamics and heart rate variability on bathing by the gap of water temperature.Biomed Pharmacother. 2005 Oct:59 Suppl 1:S92-9.
*4: Goto Y, et al.Physical and Mental Effects of Bathing: A Randomized Intervention Study.Evid Based Complement Alternat Med. 2018 Jun 7:2018:9521086.
*5: Mori Y, et al. The Effect of a Hinoki Cypress Bath on the Autonomic Nervous System Function, Emotion, and RelaxationJ. Balneol. Climatol. Phys. Med.2017: 80(2), 66‒72
*6: Ojima T, et al. Regular bathing and sleep quality among older Japanese: large scale JAGES project. J Jpn Soc Balneol Climatol Phys Med. 2014: 77 (5), 522-523
*7: Hayasaka S et al. Bathing in a bathtub and health status: a cross-sectional study. Complement Ther Clin Pract. 2010 Nov;16(4):219-21.
*8: 安田大典、他.シャワー浴からバスタブ浴への行動変容が睡眠と 作業効率に及ぼす効果について.日温気物医誌第 78 巻 4 号 2015 年 10 月341-352.